第17章 税効果会計
<本章の目的>
本章では、税効果会計について学習する。税効果会計においては税務会計と企業会計の相違の理解を前提としている。そこで税務会計の基本的な計算の理解をもとに、税効果会計の考え方を理解していく。

☆1. 税効果会計
>1. 税効果会計の意義
企業会計上の利益と法人税等の算定基礎となる課税所得とは通常一致しない。し かし、従来の当期純利益は、企業会計の考え方に基づいた税引前当期純利益から、 税務会計の考え方に基づいて計算した課税所得を基礎として算定された法人税等を差し引くことで、当期純利益を算定していた。このため、法人税等の額が税引前当期純利益と期間的に対応していなかった。

税効果会計は、企業会計と税務会計の相違点を調整し、法人税等の金額を適切に期間配分することによって、法人税等を控除する前の税引前当期純利益と法人税等を合理的に対応させ、適切な税引後の当期純利益を計算することを目的とする手続きである。

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>2. 税効果会計の対象税金
会社に課される税金には様々あるが、税効果会計で対象とされる税目は、利益に関連する金額を課税所得として課される次の3つである(以下「法人税等」とい う)。

①法人税
②住民税(都道府県民税、市町村民税)
③事業税(利益を課税標準とする場合)


>3.法人税の計算構造
(1) 法人税の概要
法人税は、一事業年度における課税所得を求め、その課税所得に税率を乗じることにより計算する。

法人税額=課税所得 × 税率


(2) 収益・費用と益金・損金
会社計算(企業会計)では、税引前当期純利益を「収益の額-費用の額」に よって算定する。
法人税では課税所得を「益金の額-損金の額」によって算定する。

益金の額
「資産の販売、有償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲渡又は役務の提供及び無償による資産の譲受け等」をいい「収益の額」 とほとんど同じようなものである。

損金の額
「収益に係る売上原価等の原価の額、販売費及ぴ一般管理費その他の費用の額並びに損失の額等」をいい「費用の額」とほとんど同じようなものである。

「会社計算の収益の額」と「法人税の益金の額」、「会社計算の費用の額」と 「法人税の損金の額」はほとんど同じようなものだが、まったく同じというわけではなく、したがって、会社計算(企業会計)の税引前当期純利益と法人税の課 税所得の金額もまったく同じというものではない。


(3) 別段の定めの概要と課税所得の計算
このように、「収益」と「益金」、「費用」と「損金」には差異があるが、その 「差異」は一部である。そこで、実際には、異なる部分だけを「別段の定め」と して例外規定を定める。

法人税法上の課税所得の計算は、企業会計上算定された利益を基に、差異を加 算・減算することにより調整して計算する。
この「別段の定め」には4項目あり、
①「会社計算の収益の額」と「法人税の益金の額」との調整で2項目、
②「会社計算の費用の額」と「法人税の損金の額」との調整で2項目ある。

①「会社計算の収益の額」と「法人税の益金の額」との調整項目
この調整項目には「益金不算入」と「益金算入」の2項目がある。

益金不算入
[内容]  会社計算では収益となるが、法人税では益金とならないもの
<例> 受取配当金の益金不算入
(取扱)  法人税では「益金不算入」項目は所得の計算上、企業会計上の税引前当期純利益から「減算」する。

益金算入
[内容] 会社計算では収益とならないが、法人税では益金となるもの
<例> 退職給付引当金の要取崩額の益金算入
(取扱) 法人税ではT益金算入」項目は所得の計算上、税引前当期純利益に「加算」する。



②「会社計算の費用の額」と「法人税の損金の額」との調整項目
この調整項目には「損金不算入」と「損金算入」の2項目がある。

損金不算入
〔内容〕 会社計算では費用となるが 法人税では損金とならないもの
<例> 減価償却費の償却超過額の損金不算入 交際費の損金不算入
(取扱) 法人税ではな損金不算入」項目は所得の計算上、税引前当期純 利益に「加算」する

損金算入
〔内容〕 会社計算では費用とならないが、法人税では損金となるもの
<例> 一定限度内での引当金の損金算入
(取扱) 法人税では「損金算入」項目は所得の計算上、税引前当期純利 益から「減算」する。


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上述のように、課税所得の計算は企業会計上算定された利益に、差異を「加算」 「減算」することにより計算する。

課税所得=税引前当期純利益-益金不算入金額+益金算入金額+損金不算入金額-損金算入金額


(4)別段の定めの内容
会社の計算の当期利益と法人税の所得金額が異なる原因は、「別段の定め」に ある。 そこで、この「別段の定め」のうち代表的な項目を以下で簡単に説明する。

①交際費の損金不算入
交際費は会社計算では費用の額になるが、法人税では冗費の節約や健全な企業取引慣行の確立などの理由により、支出した金額のうち一部を損金として認めない。したがって、損金に算入されなかった金額は、「交際費の損金不算入」として税引前当期純利益に「加算」され、課税所得が計算される。

②減価償却超過額の損金不算入
企業会計における減価償却費は、内部計算(見積計算)であり、恣意性の介入する余地が多分にあり、法人の計算をそのまま容認することはできない。

 そこで、これをできるだけ画一的に処理するため、減価償却費として損金の額に算入できる金額は、その法人が損金経理した金額のうち、償却限度額までの金額と定めている。もし、仮に償却限度額を超えて決算において減価償却費 を計上した場合には、その超える部分の金額は「減価償却超過額」として税引前当期純利益に「加算」され、課税所得が計算される。

なお、「減価償却超過額」として加算された金額は、企業会計においては、 当該償却資産の減価償却費は計上されているが、法人税法上償却が済んでいな いことになる。そのため、翌期以降において、当該償却資産が除却された等の 理由により法人税法上も損金として認められれば、「減価償却超過額認容」と して逆に税引前当期純利益に「減算」され、課税所得が計算される。

【減価償却超過額】

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③貸倒引当金繰入超過額の損金不算入
法人が債権の貸倒れによる損失に備えるために、損金経理によって貸倒引当金勘定に繰り入れた金額のうち、法人税法上の繰入限度額に達するまでの金額は、損金の額に算入することを認め、これを超える部分の金額については 「貸倒引当金繰入超過額」として加算されることになる。

なお、引当金としては、他に「退職給付引当金」などがあるが、貸倒引当金 と同様に限度額を超える部分の金額については、それぞれ加算されることになる。

また、減価償却超過額と同様に貸倒引当金繰入超過額も法人税法上損金として認められれば、「貸倒引当金繰入超過額認容」として逆に減算されることになる。

④受取配当等の益金不算入
法人株主が配当金を受け取った場合には、配当金を支払う法人の段階において法人税を課税され、さらにその配当金を受け取った法人の段階で再び課税されるといった二重課税を排除するために、配当金を受け取っても課税しないような制度が設けられてる。
 
なお、受取配当等の基になる有価証券を取得するための借入金の利息(負債 利子という)がある場合には、受取配当等からこの負債利子を控除した金額が 「受取配当等の益金不算入」として「減算」される。


>4.税効果会計の対象となる差異
(1) 一時差異と永久差異
企業会計上の税引前当期純利益と税法上の課税所得との間に差異を発生させる原因として、次の「一時差異」と「永久差異」の2つがある。

一時差異
 会計上の収益と税務上の益金 および会計上の費用と税務上の損金の考え方は同じであるが、認識するタイミングが異なることによって生ずる差異である。認識する時期が一時的にズレるものであるため一時差異といわれ、この差異はいずれ解消されるものである。

永久差異

会計上の収益と税務上の益金、および会計上の費用と税務上の損金の考え方にそもそも違いがあることにより生ずる差異である。その違いが永久に解消されることがないことから永久差異といわれる。
例えば、税務上の交際費の損金不算入額、受取配当等の益金不算入額は 企業会計上の税引前当期純利益の計算では費用または収益として計上され るが、課税所得の計算上は永久に損金または益金に算入されない。

これらの差異のうち、税効果会計の対象になるのは一時差異であり、永久差異は税効果会計の対象とはならない。


(2)一時差異のタイプ
一時差異には、「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」の2つがある。

①将来減算一時差異
税金の前払いに該当するものであり、差異が生じたときに課税所得の計算上加算され、将来、この一時差異が解消するときに、その期の課税所得を減 額する効果をもつものを将来減算一時差異という。

②将来加算一時差異
税金の繰延に該当するものであり、差異が生じたときに課税所得の計算上減額され、将来、この一時差異が解消するときに、その期の課税所得を増額 する効果をもつものを将来加算一時差異という。

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>5.将来減算一時差異と繰延税金資産
将来減算一時差異には、会計上の資産と税務上の資産との差異によるものと、会 計上の負債と税務上の負債との差によるものとがある。
いずれの場合も、将来減算一時差異については、貸借対照表上、繰延税金資産が計上され、仕訳は以下のようになる。

【将来減算一時差異が発生した年度】
(借)繰延税金資産 xx    (貸)法人税等調整額 xx
(B/S)                                 (P/L)

【将来減算一時差異が解消した年度】
(借)法人税等調整額××   (貸)繰延税金資産 xx
(P/L)                                  (B/S)


(1) 資産に係る一時差異
会計上は特定の資産について償却費や評価損等の費用,損失を計上するが、 税務上は損金算入に限度額が設けられていたり、一定の要件を具備していない ため費用・損失として認められない項目である。

以下、代表的なものを説明する。

①棚卸資産の評価損

法人税法上課税所得の計算において損金に計上される棚卸資産の評価損に ついては、以下の場合に限られている。
・災害により著しく損傷した場合
・著しく陳腐化した場合
・更正手続等の開始の決定により評価替えする必要が生じた場合 等

そのため、棚卸資産について、税務上の損金としては認められない評価損 を会計上で計上した場合、会計上は棚卸資産を評価減したときに費用とされるのに対して、税務上は棚卸資産が販売・廃棄等で処分されるときまで損金とされない。

そこで、企業会計上の利益と課税所得に差異が生じ、また、会計上の棚卸 資産の額は税務上の資産額よりも低くなる。これは、会計上の費用計上時期 と税務上の損金算入時期が異なることから生ずるものであり、この一時差異は、将来、棚卸資産が処分される年度の課税所得の計算上で減算させる効果 があるため、将来減算一時差異とされる。


② 貸倒引当金の繰入限度超過額
法人税法上、引当金の計上は債務の確定したものに限られており、 原則としてその計上は認められていない(債務確定基準)。

しかし、企業会計を行う上で債権の貸倒れによる損失は避けがたいものであり、企業会計上はその損失に備えるため貸倒引当金の設定を慣行として確立している。
そこで、法人税法では一定の繰入限度額の範囲で貸倒引当金繰入額の算入を認めているが、限度額を超えた分については損金不算入項目(貸倒引当金繰入超過額) となる。

このようにして発生した貸倒引当金繰入超過額は、貸倒れが発生して、貸倒引当金の取り崩しが行われたときに課税所得から減算されるので、 将来減算一時差異に該当する。


③ 減価償却費の償却限度超過額
企業会計における減価償却費は、会社独自で見積もった耐用年数に応じた見積計算であり、恣意性の介入する余地が多分にある。税法上は、これを出来るだけ画一的に処理するため、減価償却費として損金の額に算入できる金額は償却限度額までの金額と定めている。

したがって、企業会計上、法人税の償却限度額を超えて減価償却費を計上 した場合には、減価償却超過額は損金の額に算入されない。減価償却超過額は、当該固定資産を除却や売却などで処分したときに課税所得から減算され るため、 将来減算一時差異に該当する。


(2) 負債に係る一時差異
負債に係る一時差異は、次の理由により発生する。例えば、会計上は適正な額を負債として計上しても、税務上は確定債務でないため認められないもの、未払事業税のように会計と税務の損金算入時期が異なることにより発生するもの、引当金について税務上認められた限度額を超過したために損金に算入され ないものなどである。

以下 、代表的な未払事業税について説明する。

未払事業税

未払事業税は、事業活動を行っている株式会社や有限会社のような法人に課せられる地方税である。
企業会計上、事業税は発生時に費用として計上するが、税務上は納付したときに損金算入される。そのため、会計上発生した未払事業税は、税務上はその期の損金としては認められず、翌期において支払った段階で損金算入され、課税所得を減額する効果をもつので、将来減算一時差異に該当する。


>6.一将来加算一時差異と繰延税金負債
将来加算一時差異は、差額が生じたときに課税所得の計算上減額され、将 来、その差異が解消するときに課税所得の計算上加算される一時差異をいう。
言い換えると、一時差異が解消するときに、その期の課税所得を増額する効果をもつものをいう。
したがって、税効果が将来減算一時差異とは逆転してい る。

ここで、「差額が生じたときに課税所得の計算上減額される」とは、会計上で認識すべき収益や利益が税務上では認められないか、あるいは、税務上で認められる損金が会計上は認められないことを意味する。

ただし、前者のケースは実務的にはほとんどない。後者のケースに該当する事例として、
 ・利益処分方式により減価償却資産について圧縮記帳を行った場合
 ・利益処分方式による特別償却、利益処分方式により租税特別措置法上の諸準備金等を計上した場合
などがあげられる。
これらについては、課税上の恩典を受けるために認められた損金が、会計上は利益処分方式によることで損益計算書を通さずに計上され、ま た、税務上の資産のマイナスあるいは負債が会計上は純資産の部に計上されていることが特徴である。

将来加算一時差異については、上述のように将来減算一時差異に比較して適用される範囲が限定されているので、ここでは仕訳の形だけを紹介しておくことにする。
将来加算一時差異については、貸借対照表上、繰延税金負債が計上される。

【将来加算一時差異が発生した年度】
(借)法人税等調整額 xxx   (貸)繰延税金負債 xxx
(P/L)                (B/S)

【将来加算一時差異が解消した年度】
(借)繰延税金負債 xxx       (貸)法人税等調整額 xxx
(B/S)                (P/L)


>7.表示方法
(1) 貸借対照表に関する留意点
①流動と固定の区分
会計処理された繰延税金資産および繰延税金負債は、貸借対照表に計上さ れる。
原則としてこれらに関連した資産および負債の分類に基づいて、
繰延税金資産については「流動資産」または「投資その他の資産」として、
繰延税金負債については「流動負債」または「固定負債」として表示しなければならない。

例えば、流動資産である売掛金に対する貸倒引当金の損金算入限度超過額に係る繰延税金資産は「流動資産」として表示される。一方、固定負債である退職給付引当金に係る将来減算一時差異に対する繰延税金資産は「投資その他の資産」として計上する。


②)繰延税金資産と繰延税金負債の表示
以上のように流動と固定に分類した上で、「流動資産」に属する繰延税金資産と「流動負債」に属する繰延税金負債がある場合、また、「投資その他の資産」に属する繰延税金資産と「固定負債」に属する繰延税金負債がある 場合には、それぞれ相殺して貸借対照表に表示するものとする。したがっ て、繰延税金資産、繰延税金負債については、「流動資産」と「流動負債」 のどちらか、および「投資その他の資産」と「固定負債」のどちらかに表示 される。

例えば次のようになる。 -274-

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(2)損益計算書に関する留意点

会計処理された法人税等調整額は、損益計算書に計上されることになる。
損益計算書への表示は、税引前当期純利益以下に当期において納付すべき法人税等と区別して表示する。
なお、表示する額は、純額で記載する。

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