第2章 取引・仕訳・勘定
<本章の目的>
本章では、簿記上の取引および簿記の基本的手続きである仕訳や転記の方法を学習する。仕訳や転記の方法は簿記の基本であるので、そのルールをしっかりと覚える必要がある。
損益計算書を作成するためには、日々発生する収益と費用をもれなく記録する必要があり、貸借対照表を作成するためには、日々変動する資産や負債・純資産をもれなく記録する必要がある。
この財務諸表の作成に至る過程(簿記の手続き)示すと次のようになる。
[簿記一巡の手続き]
取引
↓
↓仕訳
↓
仕訳帳
↓
↓転記
↓
総勘定元帳
↓
↓集計
↓
試算表
↓
↓決算整理 決算の手続き
↓
損益計算書
貸借対照表
☆1.取引
>1. 取引とは
取引とは、簿記の帳簿に記録すべき事柄である。
簿記上の取引は、原因を問わず結果として企業の資産、負債、純資産、収益、費用に増減変化をもたらすあらゆる事象をいう。したがって、簿記上の取引は、一般的な取引という言葉の意味とは多少異なる。
例えば、建物が火災によって焼失した場合には、一般的に取引といわないが、資産が減少するため簿記上は取引になる。また、営業マンが得意先の訪問で、新商品の説明をした場合は、一般的に取引という。しかし、商談(商交渉、口約束) という段階では、企業の資産、負債、純資産、収益、費用に増減変化が生じないため、 簿記上は取引にはならないのである(なお、売買契約が結ばれ、手付金等の授受があれば取引となる) 。
>2. 取引の記録方法
簿記では取引は勘定(account : a / c )に記録して計算する。
勘定には、「+(プラス)」「-(マイナス)」の符号を用いて増減を記録する代わりに、記入の場所を左右に分け、増加と減少を区別する。
現金 勘定科目
増加(+) | 減少(一) 勘定口座
(借方) | (貸方) 簿記上、左右を区別する言葉
例えば、現金の増減記録を行う場合に、上記のような勘定(これを現金勘定という)を設け、入金があれば左側(借方)に記録し、出金した場合は右側(貸方)に記録する。 この勘定科目別の記録・計算を行うための帳簿を総勘定元帳(または単に元帳) といい、元帳上に設けられた勘定を勘定口座という。
[範例]
次の取引を現金勘定に記入し、9月5日現在の現金有高を計算しなさい。
9月1日 現金¥10,000円を受け取った。
9月3日 現金¥5,000円を受け取った。
9月5日 現金¥8,000円を支払った。
現金
9/1 10,000 | 9/5 8,000
9/3 5,000 | 残高①-②=¥7,000
借方合計 貸方合計
(入金合計) (出金合計)
①15,000 ② 8,000
現金の現在有高は、借方の合計金額から貸方の合計金額を差引くことで計算する。
簿記では、この貸借の差を勘定の残高という。
勘定の記入法則
[記入のルール]
資産の増加は借方、減少は貸方に記入
負債の増加は貸方、減少は借方に記入
純資産の増加は貸方、減少は借方に記入
費用の発生(増加)は借方に記入
収益の発生(増加)は貸方に記入
なお、損益計算書と貸借対照表は、勘定記入の結果得られる各勘定の残高を集約することで作成される。
>3. 取引の二重性と貸借平均の原則
取引を勘定記入すると、必ず2つ以上の勘定に記入され(取引の二重性)、借方と貸方に対して同額が記入される(貸借平均の原則)ことになる。
たとえば、現金¥10000を銀行から借り入れた場合の勘定記入は、次のようになる。
[範例]
次の取引を勘定記入しなさい。
10月10日 事務用机¥50,000を現金で購入した。
備品 現金
| |
解答
貸方要素 借方要素
備品が増加する 現金が減少する
(資産の増加) (資産の減少)
備品 現金
¥50,000| |¥50,000
資産の増加は 資産の減少は
借方に記入 貸方に記入
取引は、備品勘定と現金勘定の2つの勘定に記入され、2つの勘定の金額は借方¥50,000と貸方¥50,000で一致する。
☆2.仕訳
>1. 仕訳
取引が発生すると勘定に記録して計算されるが、その取引を直ちに勘定口座に記入するのではなく、勘定口座に記入しやすいように、いったん取引内容をメモにとる。このメモを仕訳といい、仕訳帳という帳簿に記入される。
取引
↓
仕訳:勘定口座に記入しやすいように、取引を借方項目と貸方項目に区分し、発生順に記録する。
↓
勘定口座
>2.仕訳の方法
仕訳は、取引内容から次の3つを確認する。
☆何が:資産・負債・準資産・収益・経費のどれに該当し、その具体的な勘定項目は何かを判断
☆いくら:記録すべき金額を決定
☆どちら側:増加か減少かを考え、記録する側、すなわち借方記入するのか貸方記入するのかを判断
確認された取引項目は、次のように仕訳する。
(借方課目)借方金額 (貸方課目)貸方金額
現金の増減を例に取ると、
「現金¥10,000を◎◎◎として受け取った。」
(現金)¥10,000 (◎◎◎)¥10,000
「現金¥5,000を△△△として支払った。」
(△△△)¥5,000 (現金)¥5,000
[範例]
4月1日 自己資金(現金)¥50,000で営業を開始した。
( ) ( )
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:資本金が増加する(純資産の増加)
(現金)¥50,000 (純資産)¥50,000
4月5日 現金¥20,000を借り入れた。
( ) ( )
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:借入金が増加する(負債の増加)
(現金)¥50,000 (負債)¥50,000
4月10日 備品¥50,000を購入し、現金を支払った。
( ) ( )
借方要素:備品が増加する(資産の増加) 貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(備品)¥50,000 (現金)¥50,000
4月15日 光熱費¥5,000を現金で支払った。
( ) ( )
借方要素:光熱費が発生する(費用の発生) 貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(光熱費)¥50,000 (現金)¥50,000
4月25日 手数料¥10,000を現金で受け取った。
( ) ( )
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:受取手数料が発生する(収益の発生)
(現金)¥10,000 (受取手数料)¥10,000
4月30日 借入金のうち¥10,000を利息¥1,000とともに現金で支払った。
( ) ( )
借方要素:借入金が減少する(負債の減少)、支払い利息が発生する(費用の発生)
貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(借入金) ¥50,000 (現金)¥50,000
(支払利息)¥1,000
この仕訳例で解るとおり、簿記では、単に現金の増減という記録にとどまらず、その相手科目の存在を意識する必要がある。つまり、「単に何かが増減」ではなく、「何かが増減と同時に何かが増減したか」という二面的に取引をとらえるのである。
仕訳の法則
資産の増加 資産の減少
負債の減少 負債の増加
純資産の減少 純資産の増加
費用の発生 収益の発生
↓ ↓
(具体的勘定科目)*** ( 具体的勘定科目)*****
☆3.勘定記入(転記)
取引では、仕訳に基づいて各勘定口座に記入されるが、これを転記という。
仕訳は、勘定口座へ転記するための仲介記入(メモ書き)なので、仕訳ができれば、その記入のとおりに勘定口座に記入すればよい。
すなわち、仕訳の法則がそのまま勘定口座へ記入法則となる。
例)現金¥20,000を借り入れた。
仕訳:(現金)¥20,000 (借入金)¥20,000
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:借入金¥20,000が増加する(負債の増加)
転記:
現金 借入金
¥20,000| |¥20,000
また、勘定口座への転記の際は、通常は日付、相手科目、金額を記入する。
勘定科目
日付欄 摘要欄 金額 |
なお、相手科目が複数(2つ以上)の場合は、「諸口」と記入する。
4月30日 借入金のうち¥10,000を利息¥1,000とともに現金で支払った。
( ) ( )
借方要素:借入金が減少する(負債の減少)、支払い利息が発生する(費用の発生)
貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(借入金) ¥50,000 (現金)¥50,000
(支払利息)¥1,000
借入金 現金
4/30 現金¥20,000| |4/30 諸口¥11,000
支払利息
4/30 現金¥1,000|
[範例]
次の仕訳を勘定口座に転記しなさい。また、勘定記入の結果から損益計算書と貸借対照表を作成しなさい。
なお、勘定記入は、日付と金額のみでよい。
4月1日 (現金)50,000 (資本金) 50,000
4月5日 (現金)20,000 (借入金) 20,000
4月10日 (備品)50,000 (現金) 50,000
4月15日 (光熱費)50,000 (現金) 50,000
4月25日 (現金)50,000 (受取手数料) 50,000
4月30日 (借入金)50,000 (現金) 11,000
(支払利息)
現金 備品
| |
|
| 借入金
|
受取手数料 資本金
| |
損益計算書
◎◎商店 自平成XX年4月1日 至平成XX年4月30日 (単位:円)
費用の部 金額 収益の部 金額
貸借対照表
◎◎商店 平成XX年4月30日現在 (単位:円)
資産の部 金額 負債・純資産の部 金額
<本章の目的>
本章では、簿記上の取引および簿記の基本的手続きである仕訳や転記の方法を学習する。仕訳や転記の方法は簿記の基本であるので、そのルールをしっかりと覚える必要がある。
損益計算書を作成するためには、日々発生する収益と費用をもれなく記録する必要があり、貸借対照表を作成するためには、日々変動する資産や負債・純資産をもれなく記録する必要がある。
この財務諸表の作成に至る過程(簿記の手続き)示すと次のようになる。
[簿記一巡の手続き]
取引
↓
↓仕訳
↓
仕訳帳
↓
↓転記
↓
総勘定元帳
↓
↓集計
↓
試算表
↓
↓決算整理 決算の手続き
↓
損益計算書
貸借対照表
☆1.取引
>1. 取引とは
取引とは、簿記の帳簿に記録すべき事柄である。
簿記上の取引は、原因を問わず結果として企業の資産、負債、純資産、収益、費用に増減変化をもたらすあらゆる事象をいう。したがって、簿記上の取引は、一般的な取引という言葉の意味とは多少異なる。
例えば、建物が火災によって焼失した場合には、一般的に取引といわないが、資産が減少するため簿記上は取引になる。また、営業マンが得意先の訪問で、新商品の説明をした場合は、一般的に取引という。しかし、商談(商交渉、口約束) という段階では、企業の資産、負債、純資産、収益、費用に増減変化が生じないため、 簿記上は取引にはならないのである(なお、売買契約が結ばれ、手付金等の授受があれば取引となる) 。
>2. 取引の記録方法
簿記では取引は勘定(account : a / c )に記録して計算する。
勘定には、「+(プラス)」「-(マイナス)」の符号を用いて増減を記録する代わりに、記入の場所を左右に分け、増加と減少を区別する。
現金 勘定科目
増加(+) | 減少(一) 勘定口座
(借方) | (貸方) 簿記上、左右を区別する言葉
例えば、現金の増減記録を行う場合に、上記のような勘定(これを現金勘定という)を設け、入金があれば左側(借方)に記録し、出金した場合は右側(貸方)に記録する。 この勘定科目別の記録・計算を行うための帳簿を総勘定元帳(または単に元帳) といい、元帳上に設けられた勘定を勘定口座という。
[範例]
次の取引を現金勘定に記入し、9月5日現在の現金有高を計算しなさい。
9月1日 現金¥10,000円を受け取った。
9月3日 現金¥5,000円を受け取った。
9月5日 現金¥8,000円を支払った。
現金
9/1 10,000 | 9/5 8,000
9/3 5,000 | 残高①-②=¥7,000
借方合計 貸方合計
(入金合計) (出金合計)
①15,000 ② 8,000
現金の現在有高は、借方の合計金額から貸方の合計金額を差引くことで計算する。
簿記では、この貸借の差を勘定の残高という。
勘定の記入法則
[記入のルール]
資産の増加は借方、減少は貸方に記入
負債の増加は貸方、減少は借方に記入
純資産の増加は貸方、減少は借方に記入
費用の発生(増加)は借方に記入
収益の発生(増加)は貸方に記入
なお、損益計算書と貸借対照表は、勘定記入の結果得られる各勘定の残高を集約することで作成される。
>3. 取引の二重性と貸借平均の原則
取引を勘定記入すると、必ず2つ以上の勘定に記入され(取引の二重性)、借方と貸方に対して同額が記入される(貸借平均の原則)ことになる。
たとえば、現金¥10000を銀行から借り入れた場合の勘定記入は、次のようになる。
[範例]
次の取引を勘定記入しなさい。
10月10日 事務用机¥50,000を現金で購入した。
備品 現金
| |
解答
貸方要素 借方要素
備品が増加する 現金が減少する
(資産の増加) (資産の減少)
備品 現金
¥50,000| |¥50,000
資産の増加は 資産の減少は
借方に記入 貸方に記入
取引は、備品勘定と現金勘定の2つの勘定に記入され、2つの勘定の金額は借方¥50,000と貸方¥50,000で一致する。
☆2.仕訳
>1. 仕訳
取引が発生すると勘定に記録して計算されるが、その取引を直ちに勘定口座に記入するのではなく、勘定口座に記入しやすいように、いったん取引内容をメモにとる。このメモを仕訳といい、仕訳帳という帳簿に記入される。
取引
↓
仕訳:勘定口座に記入しやすいように、取引を借方項目と貸方項目に区分し、発生順に記録する。
↓
勘定口座
>2.仕訳の方法
仕訳は、取引内容から次の3つを確認する。
☆何が:資産・負債・準資産・収益・経費のどれに該当し、その具体的な勘定項目は何かを判断
☆いくら:記録すべき金額を決定
☆どちら側:増加か減少かを考え、記録する側、すなわち借方記入するのか貸方記入するのかを判断
確認された取引項目は、次のように仕訳する。
(借方課目)借方金額 (貸方課目)貸方金額
現金の増減を例に取ると、
「現金¥10,000を◎◎◎として受け取った。」
(現金)¥10,000 (◎◎◎)¥10,000
「現金¥5,000を△△△として支払った。」
(△△△)¥5,000 (現金)¥5,000
[範例]
4月1日 自己資金(現金)¥50,000で営業を開始した。
( ) ( )
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:資本金が増加する(純資産の増加)
(現金)¥50,000 (純資産)¥50,000
4月5日 現金¥20,000を借り入れた。
( ) ( )
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:借入金が増加する(負債の増加)
(現金)¥50,000 (負債)¥50,000
4月10日 備品¥50,000を購入し、現金を支払った。
( ) ( )
借方要素:備品が増加する(資産の増加) 貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(備品)¥50,000 (現金)¥50,000
4月15日 光熱費¥5,000を現金で支払った。
( ) ( )
借方要素:光熱費が発生する(費用の発生) 貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(光熱費)¥50,000 (現金)¥50,000
4月25日 手数料¥10,000を現金で受け取った。
( ) ( )
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:受取手数料が発生する(収益の発生)
(現金)¥10,000 (受取手数料)¥10,000
4月30日 借入金のうち¥10,000を利息¥1,000とともに現金で支払った。
( ) ( )
借方要素:借入金が減少する(負債の減少)、支払い利息が発生する(費用の発生)
貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(借入金) ¥50,000 (現金)¥50,000
(支払利息)¥1,000
この仕訳例で解るとおり、簿記では、単に現金の増減という記録にとどまらず、その相手科目の存在を意識する必要がある。つまり、「単に何かが増減」ではなく、「何かが増減と同時に何かが増減したか」という二面的に取引をとらえるのである。
仕訳の法則
資産の増加 資産の減少
負債の減少 負債の増加
純資産の減少 純資産の増加
費用の発生 収益の発生
↓ ↓
(具体的勘定科目)*** ( 具体的勘定科目)*****
☆3.勘定記入(転記)
取引では、仕訳に基づいて各勘定口座に記入されるが、これを転記という。
仕訳は、勘定口座へ転記するための仲介記入(メモ書き)なので、仕訳ができれば、その記入のとおりに勘定口座に記入すればよい。
すなわち、仕訳の法則がそのまま勘定口座へ記入法則となる。
例)現金¥20,000を借り入れた。
仕訳:(現金)¥20,000 (借入金)¥20,000
借方要素:現金が増加する(資産の増加) 貸方要素:借入金¥20,000が増加する(負債の増加)
転記:
現金 借入金
¥20,000| |¥20,000
また、勘定口座への転記の際は、通常は日付、相手科目、金額を記入する。
勘定科目
日付欄 摘要欄 金額 |
なお、相手科目が複数(2つ以上)の場合は、「諸口」と記入する。
4月30日 借入金のうち¥10,000を利息¥1,000とともに現金で支払った。
( ) ( )
借方要素:借入金が減少する(負債の減少)、支払い利息が発生する(費用の発生)
貸方要素:現金が減少する(資産の減少)
(借入金) ¥50,000 (現金)¥50,000
(支払利息)¥1,000
借入金 現金
4/30 現金¥20,000| |4/30 諸口¥11,000
支払利息
4/30 現金¥1,000|
[範例]
次の仕訳を勘定口座に転記しなさい。また、勘定記入の結果から損益計算書と貸借対照表を作成しなさい。
なお、勘定記入は、日付と金額のみでよい。
4月1日 (現金)50,000 (資本金) 50,000
4月5日 (現金)20,000 (借入金) 20,000
4月10日 (備品)50,000 (現金) 50,000
4月15日 (光熱費)50,000 (現金) 50,000
4月25日 (現金)50,000 (受取手数料) 50,000
4月30日 (借入金)50,000 (現金) 11,000
(支払利息)
現金 備品
| |
|
| 借入金
|
受取手数料 資本金
| |
損益計算書
◎◎商店 自平成XX年4月1日 至平成XX年4月30日 (単位:円)
費用の部 金額 収益の部 金額
貸借対照表
◎◎商店 平成XX年4月30日現在 (単位:円)
資産の部 金額 負債・純資産の部 金額