第13章 経済厚生-応用
<本章の目的>
第5章で見た余剰分析は、ある1財の市場のみを扱ったものである。本章では、まず2つ以上の多数の財の相互依存的な市場を扱う分析としてパレート最適について見ていく。
次に、場合によって完全競争市場では社会的余剰が減少し、最適資源配分を達成できないケースである市場の失敗について見ていく。

☆1. パレート最適
>1. 純粋交換経済のボックス・ダイアグラム
経済に存在する有限な資源を最も効率的に配分できている状態をパレート最適とよぶ。
経済に2個人(個人Aと個人B) と2財(X財と 財)が存在し、2財の市場が相互依存関係にあることを明示的に分析する手法を一般均衡分析とよぶ"。*1
*1 これに対して1財のみの市場を分析する手法を部分均衡分析とよぶ。

一般均衡分析における資源配分の効率性の分析に用いられるのがエッジワースのポックス・ダイアグラムである。

ボックス ダイアグラムは図表13-1のように描かれる。
財の生産がなく、すでに 経済に存在する資源(財)のみを市場で取引することを仮定する経済モデルを純粋交換経済とよぶ*2。
*2 本章の第1節で扱う純粋交換経済の一般均衡分析は財生産を含む経済モデルに拡張することもできる。

純粋交換経済のボックス·ダイアグラムの横軸の長さはX財、縦軸は 財の賦存量によって決定される。
賦存量とは経済に存在する資源(財)の総量のことである。この賦存量を需要することで個人Aと個人Bは効用を得ている。

ここで、当初の資源配分を表わす初期保有点を点Cとしよう。
個人Aの原点は左 下のOAで示され、X財の需要量はOAから右方向にはかったXA、Y財の需要量はOAから上方向にはかったYAで表わされる。

一方、残りが個人Bの需要量となり、個人Bの原点は右上のOBで示され、X財の需要量はOBから左方向にはかったXB、 Y財の需要量はOBから下方向にはかったYBで表わされる。

両者の無差別曲線 (UA, UB)は初期保有点Cを通り、両者の原点(OA、OB)に対して凸型に描かれる。
原点から離れるほど効用は大きいので、UAが右上に位置するほど個人Aの効用は大きく、UBが左下に位置するほど個人Bの効用は大きくなる。
 

P182

>2. パレート最適と契約曲線
(1)パレート改善
ある資源配分状態から別の資源配分状態に変化したとき、個人B (個人A)の 効用を下げずに個人A (個人B)の効用を上げられるとき、このような変化をパレート改善という。
図表13-2において、初期保有点Cから点E、 F、Gへの変化はパレート改善である。
確認のため、点Cからの変化による効用の増減を検討する。
(なお、効用の大きさは、UA0<UA1<UA2<UA3<UA4、UB0<UB1<UB2<UB3<UB4である。)

点Cから点Eへ変化すると、個人Bの効用はUB1で一定のまま個人Aの効用は上昇する(UA1<UA3)。
点Cから点Fへ変化すると、個人Aと個人Bの効用はともに上昇する(UA1<UA2、UB1<UB2)。
点Cから点Gへ変化すると、個人Aの効用はUA1で一定のまま個人Bの効用は上昇する(UB1<UB3)。
一方、点D、Hへの変化は、パレート改善ではない。
点Dへ変化すると、個人Aの効用は上昇するが(UA1<UA4)、個人Bの効用は低下し(UB1>UB0)、
点Hへ変化すると、個人Bの効用は上昇するが(UB1<UB4)、個人Aの効用は低下する(UB1<UB4)
からである。

P183


(2)パレート最適と限界代替率
ある資源配分状態において、個人B (個人A)の効用を下げずに個人A (個人 B)の効用を上げられる他の資源配分状態が存在せず、パレート改善の余地がない状態をパレート最適という。

図表13-2において、点D、E、 F、G、 Hや原点 (OA、OB)はパレート最適である。
たとえば、OAから個人Aの効用を上げるために個人AのX財 (あるいはY財 )の需要量を増加させると、個人BのX財 (あるいはY財)の需要量が減少するため、個人Bの効用は低下してしまうからである。
一方、点Cはパレート改善が可能であることから、パレート最適ではない。

パレート最適点D、 E、 F、G、 Hでは個人Aと個人Bの限界代替率が一致している。
たとえば、パレート最適点Hにおける個人Aの限界代替率MRSAは無差別曲線UA0の接線の傾き、個人Bの限界代替率MRSBは無差別曲線UB4の接線の傾きとして求められる。
このとき、MRSA=MRSBが成立する。これは点D、E、 F、 Gでも同様である。*1

*1 限界代替率が一致する点は必ずパレート最適点であるが、パレート最適点では必ずしも限界代替率が一致するとは限らない。たとえば、原点(OA、OB) もパレート最適ではあるが、個人Aと個人Bの限界代替率は一致するとは限らない。


(3)契約曲線
図表13-2で原点(OA、OB)を含むパレート最適点を結ぶ線を契約曲線とよぶ。
なお、契約曲線上の点はすべてパレート最適点であるから、契約曲線上での 資源配分の優劣を判断することはできない。また、パレート最適は資源配分の効率性を意味するものであり、資源配分の公平性を意味するもものではない。
たとえば、点Fは原点OAと比べて一見、平等・公平な配分に思われるが、公平性は個々人のおかれる立場や社会的価値観によるものであり、それを考慮していないパレート基準(パレート改善、パレート最適)からは公平性を判断することはできない。


☆2.外部性

>1.市場の失敗
市場では価格変化を通じてパレート最適な競争均衡が実現される。
しかし、現実には市場によって実現される競争均衡が必ずしもバート最適であるとは限らない。
市場が必ずしもバレート最適を実現しないことを市場の失敗とよび、その例として、 不完全競争市場、外部効果、公共財、自然独占、情報の非対称性があげられる。

>2.外部効果
(1)金銭的外部劫果と技術的外部効果
市場における競争均衡がパレート最適の実現を妨げる要因として外部効果(外部性)がある。
外部効果には、金銭的外部効果と技術的外部効果がある。

①金銭的外部効果
金銭的外部効果とは、ある経済主体の行動が市場の価格変化を介して、間接的に別の経済主体の経済厚生に与える効果のことである。
たとえば、駅の設置と地価の上昇による土地所有者の所得増加などがあげられる。

②技術的外部効果
技術的外部効果とは、ある経済主体の行動が市場を介さず、直接的に別の経済主体の経済厚生に与える効果のことである。
なお、一般的に外部効果という 場合は技術的外部効果のことを意味するので、以降では技術的外部効果のみを外部効果として取り上げる。


(2)外部不経済と外部経済
外部効果には、別の経済主体の経済厚生に悪い効果をもたらす外部不経済と良い効果をもたらす外部経済がある。

①外部不経済
外部不経済の例として公害があげられる。ある企業が公害を発生させ、近隣住民に健康被害を与えているとしよう。このとき、診療など金銭的損失の発生にもかかわらず、そのような損失額が企業の生産物の価格に反映されているとは限らない。

②外部経済
外部経済の例として植林があげられる。ある林業会社が販売目的で植林をおこない、それが近隣地域に治水効果をもたらすとしよう。このとき、治水対策費の節約など金銭的利益の発生にもかかわらず、そのような利益額が企業生産物の価格に反映されているとは限らない。外部不経済、外部経済ともに生産物の価格に外部効果が反映されないため、市場の失敗が発生することになる。


>3.競争均衡と最適均衡
(1)私的限界費用と社会的限界費用
外部効果まで考慮した財の生産費用を社会的限界費用SMC、外部効果を考慮しない財の生産費用を私的限界費用PMCという *1。
*1社会的限界費用: Social Marginal Cost,、的限界費用: Private Marginal Cost

企業は通常、外部効果を考慮することはないので私的限界費用に基づき生産量を決定する。
市場の失敗は社会的限界費用と私的限界費用の乖離によるものである。このような市場の失敗に対しては、政府が課税や補助金給付を通じて市場に介入することでパレート最適な均衡を実現することができる。

(2)外部不経済と課税
図表13-3の図①は外部不経済が発生しているケースを表わしている。
外部不経済とは公害のように別の経済主体の厚生に悪い効果をもたらすものなので、外部効果を考慮した社会的限界費用曲線SMCは私的限界費用曲線PMC0の上方に位置することになる。

社会的限界費用曲線とは外部効果を費用として考慮した供給曲線のことでもあり、最適均衡はSMCと需要曲線Dの交点Fとなる。

均衡が点Fのとき総余剰は △ABFで表わされる。
ところが、企業はPMC0に基づき生産を行うので、競争均衡はPMC0と需要曲線Dの交点Eとなり、最適均衡に比べ競争均衡では過剰生産となっている(X0>X1)。
均衡が点Eのとき消費者余剰と生産者余剰の合計は△ABE、発生する外部不経済の大きさはSMCとPMC0の差の合計である△BECで表わされる。

外部不経済は悪い効果なので総余剰から差し引く必要がある。
したがって、総余剰は次のように求められる。

総余剰=消費者余剰+生産者余剰ー外部不経済
=△ABEー△BEC
=△ABFー△CFE

P187



このとき、最適均衡と比べた総余剰の減少分△CFEが外部効果による死荷重である。
外部不経済が発生するとき政府の課税によって最適均衡を実現することができる。
ここで最適均衡点FにおけるSMCとPMC0の差に等しい税額FGの従量税を企業に課すとしよう。
従量税が課されると、供給曲線すなわちPMC0は税額FGの分だけ上方にシフトしPMC1となる。
このとき、競争均衡はPMC1と需要曲線Dの交点Fとなり、最適均衡と一致する。
均衡が点Fのとき、消費者余剰と生産者余剰の合計は△BGF、政府の税収は□BGFHで表される。
税収は、政府の収入として総余剰に加える必要がある。
したがって、総余剰は次のように求められる。

総余剰=消費者余剰+生産者余剰ー外部不経済+税収
=△AHF-△BGF+□GGFH
=△ABF

よって、課税前の競争均衡における死荷重分(△CFE)だけ社会的厚生が高まることになる。
なお、このような課税によって外部不経済を克服することをピグー課税とよぶ。



(3)外部経済と補助金
図13-3の図②は、外部経済が発生しているケースを表している。
外部経済とは植林のように別の経済主体の厚生に良い効果をもたらすものなので、外部効果を考慮した
社会的限界費用線SMCは私的限界費用線PMC0の下方に位置することになる。

最適均衡はSMCと需要曲線Dの交点Fとなる。
均衡が点Fのとき総余剰は△ABFで表される。
ところが、企業はPMC0に基づき生産を行うので、競争均衡はPMC0と需要曲線Dの交点Eとなり、最適均衡に比べ競争均衡では生産不足となっている(X0<X1)。
均衡が点Eのとき、消費者余剰と生産者余剰の合計は△ABE、発生する外部経済の大きさはPMC0とSMCの差の合計である。
したがって、総余剰は次のように求められる。

総余剰=消費者余剰+生産者余剰+外部経済
=△ABE+△BCE
=□ABCE

このとき、最適均衡と比べた総余剰の減少分△ECFが外部効果による死荷重である。

外部経済が発生すとき、政府の補助金によって最適均衡を実現することができる。
ここで、最適均衡点FにおけるPMC0とSMCの差に等しいGFの補助金を1単位の生産に対し企業に給付するとしよう。
補助金が給付されると、供給曲線すなわちPMC0は補助金額GFの分だけ下方に平行シフトしPMC1となる。このとき、競争均衡はPMC1と需要曲線Dの交点Fとなり、最適均衡と一致する。
均衡が点Fのとき、消費者余剰と生産者余剰の合計は△AHF、発生する外部経済の大きさはPMC0とSMCの差の合計である△BFG、政府の補助金は□BHFGで表される。
補助金は政府の支出として総余剰から差引く必要がある。
したがって、総余剰は次のように求められる。

総余剰=消費者余剰+生産者余剰+外部経済ー補助金額
=△AHF+△BFG-□BHFG
=△ABF


>4. コースの定理
(1)交渉
外部効果が存在するとき、課税や補助金など政府の市場介入がなくても、当事者の自発的な交渉によりパレート最適を実現することは可能である。

図表13-4には、ある企業が財の生産にともない近隣住民に公害などの外部不経済を与えるケースが描かれている。
右下がりの曲線MBは生産量の1単位増加による企業の利益の増加分を表わす限界便益であり、限界便益生産量の増加にともない低下する*1。*1限界便益: Marginal Benefit

右上がりの曲線MCは生産量の1単位増加による住民の損害額の増加分 を社会的費用として表した限界費用であり、限界費用は生産量の増加にともない上昇する。

パレート最適な生産量は限界便益と限界費用の一致するX*である。
生産量について企業と住民が交渉を行うとき、どのような生産量が決定されるであろうか。
交渉としては以下の二つのケースが考えられる。

①企業が住民の被る損害を補償するケース
生産量の増加は住民に損害を与えるが、企業は住民の被る損害を補償することで生産量を増加させることができる。
企業は生産量を増加させることによって得られる利益が支払う補償額を上回る限り、住民に補償を行ってでも生産量を増加させようとするであろう。
一方、住民は生産量が増加することによって被る損害額が受け取る補償額を下回る限り、企業から補償を受け入れて生産量の増加を認めるであろう。

生産量をX1とすると、このとき生産量の1単位増加は企業の利益をMB1だけ増加させ、住民の損害をMC1だけ増加させる。企業はMB1を下回る補償額を提示し、住民はMC1を上回る補償額を受け入れ、生産量増加の交渉が成立する。このような交渉はMBがMCを上回る限り成立するので、最終的に生産量はX*に決定する。

②住民が企業の失う利益を補償するケース
生産量の減少は企業の利益を失わせるが、住民は企業の失う利益を補償することで生産量を減少させることができる。住民は生産量を減少させることによって低減する損害額が支払う補償額を上回る限り、企業に補償を行ってでも生産量を減少させようとするであろう。

一方、企業は生産量が減少することに よって失う利益が受け取る補償額を下回る限り、住民から補償を受け入れて生産量を減少させるであろう。
生産量をX2とすると、このとき生産量の1単位減少は住民の損害をMC2だけ減少させ、企業の利益をMB2だけ減少させる。住民はMC2を下回る補償額を提示し、企業はMB2を上回る補償額を受け入れ、生産量減少の交渉が成立する。
このような交渉はMCがMBを上回る限り成立するので、最終的に 生産量はX*に決定する。
P190


(2)コースの定理と取引費用
図表13-4のように、補償の支払い義務と受取り権利がどちらにあっても、交渉 によって生産量はX*というパレート最適な水準に決定する。
このことから次の定理をコースの定理とよぶ。

コースの定理
取引費用がない場合、法的権利がどちらにあっても、当事者間交渉により効率的資源配分が実現される。

交渉に必要となる費用や時間などのことを取引費用といい、取引費用が高くなると交渉自体が行われなくなり、効率的資源配分の実現は不可能となる。



☆3.公共財
>1.公共財の性質
これまで取り上げてきた財は、誰かの消費量を増加させるためには他の誰かの消費量を減少させなければならず(競合性)、対価を払わなければ消費することはで ない(排除性) という性質をもつ私的財である。一方、次の二つの性質をもつ財は公共財とよばれる*1.。
*1厳密には特徴を二つとももつ財を純粋公共財、一つだけもつ財を準公共財とよぶ。
純粋公共財の例としては、国防、警察、消防、司法などがあげられる。

①非競合性
ある人の消費が他の人の消費を妨げないという性質を非競合性という。

②非排除性
対価を払わない人を消費から揦涂できないという性質を非排除性という。

たとえば一般道路は敷設されれば誰でも通行が可能であり、誰かが通行しているからといって、他の誰かが通行できなくなるわけではないので、非競合性をもつ。
また、一般道路は敷設費用を負担しなくても通行は可能であり、費用を負担しないからといって、利用できなくなるわけではないので非排除性をもつ。
このような特徴をもつ公共財の例として、他には街灯や国防、警察、消防サービスなどがあげられる。


>2.公共財の最適供給
公共財の最適供給 個人Aと個人Bの二人が存在するとしよう。
図表13-5では単純化のため公共財供給の限界費用MCが水平の直線で表わされている。
また、曲線MVAやMVBは各 個人の限界評価曲線である*2。
*2限界評価: Marginal Valuation

限界評価とは、公共財の供給が1単位追加されるときに個人が追加された公共財に与える評価金額であり、通常、供給量が増加するほど限界評価は低下するので限界評価曲線は右下がりで描かれる。
たとえば公共財供給量がX0のとき、供給量の1単位追加に対し、個人AはMVA0の評価を与えている。
このように限界評価はいわば公共財に対する需要価格を表わしており、限界評価曲線を公共財の需要曲線ということもある。

公共財供給のための費用MCを個人Aと個人Bに負担させた上で供給量を決定するとしよう。
公共財は非競合性の性質から、等量消費(すべての個人が等しい量を消費すること)が可能になるので、最適供給量をX*とすると、X*=XA=XBが成立する。

供給量がX0のとき、供給量の1単位追加に対し、社会全体ではMVA0+MVB0の評価を与えている。
評価額が費用を上回る限り供給量を増加させることで、社会的な便益を増加させることができる*1。
*1限界評価は限界便益MB (Marginal Benefit)とよばれることもある。

よって、MCとMVA + MVBの交点Eで決定するX*が社会的に最適な生産量であり、個人AがMVA*、個人Bが MVB*の費用負担をすることでX*が供給される。

公共財の最適供給条件
MC=MVA+ MVB

なお、この条件は導出した学者の名をとり、ボーエン=サミュエルソン条件ともよばれる。
P192


>3.リンダール・メカニズムとフリーライダー
(1) リンダール·メカニズム
通常、限界評価曲線を把握することは困難なため、ボーエン=サミュエルソン条件を現実に適用することは難しい。経済学者リンダールはリンダール・メカニズムという手法で個人の費用負担を決定し、公共財のパレート最適供給が可能になるとした。
リンダール・メカニズムでは次のように①から③のプロセスを経て図表13-5の最適供給量X*=XA=XB、費用負担MC=MVA *+MVB*を決定することが可能となる。

公共財供給を担う経済主体(政府でも企業でもよい)が、
各個人に対して費用負担をMC=PA (個人Aの負担) + PB (個人Bの負担) と提示する。

費用負担を提示された個人は、自らの限界評価曲線に基づきPA=MVA、 PB=MVBとなる需要量を申告するが、ここでXA<XBと申告されたとしよう。これは、等量消費(X*=XA*=XB*) となっていない。

限界評価曲線が右下がりであることから、個人Aの負担を引き下げることでXAを増加、個人Bの負担を引き上げることでXBを減少させることができる。
このようなプロセスを繰り返してXA=XBとなるような費用負担MC= MVA+NVBで、最適供給X*を実現することが可能となる。


(2)フリーライダー
リンダール メカニズムが機能するならば、企業による市場での公共財供給も可能である。
しかし、リンダール メカニズムの②のプロセスにおいて各個人が正直に需要量を申告するとは限らない。公共財の性質(非競合性、非排除性)よ り、個人は誰に妨げられることも費用負担をすることもなく消費することができてしまうので過少な申告をする誘因が存在する。このように、費用負担をすることなく、他者の費用負担によって財消費を行おうとする者をフリーライダー(ただ乗り) とよび、フリーライダーの存在により、公共財の市場での最適な供給は困難となる。


☆4. 自然独占
>1. 費用逓減産業
電気、ガス、水道、通信、鉄道などの産業は財・サービスの生産にあたり巨額の固定費用を必要とする。このような産業を費用逓減産業とよぶ。
縦軸に価格P、横軸に数量Xをとった図表13-6には、右下がりの需要曲線Dと限界収入曲線MRおよび限界費用曲線MCが描かれ、費用逓減産業の平均費用曲線ACは需要の存在するすべての数量について右下がりで描かれる。
このような産業の市場では、新規企業が生産を開始しようとしても、生産量が少ない水準では平均費用が高すぎて生産が不可能となる。
よって、ある1企業が大規模生産に成功すると他社の市場への参入が不可能となり、独占市場が形成されることになる。このような状態を自然独占とよぶ。このような産業では、多くの国で独占企業に独占的供給を認めつつ、生産量や価格について厳しい規制が設けられている。

>2.価格形成原理
(1)無規制の場合
このような市場で何も規制が行われなければ、図表13-6において独占企業は利潤最大化条件MR=MCに基づき、点Hで生産量をX1に決定し、価格は需要曲線上の点AでP1に決定する。
費用逓減産業は電気、ガス、水道などの生活インフラ産業に多いので、生産量が少なく、価格が高く設定されることは望ましくない。そのため、政府が規制を行う必要がある。

(2)限界費用価格形成原理
図表13-6の需要曲線Dと限界費用曲線MCの交点Gで価格をP2に規制することを限界費用価格形成原理とよぶ。このとき生産量はX2となり、これは需要曲線Dと供給曲線(=MC)が一致する生産量であり、完全競争市場における生産量に等しく、社会的厚生が最大となるパレート最適が実現されることになる。
ただし、企業の生産量がX2のとき平均費用はAC2となり、価格が平均費用を下回ってしまうので、企業に□EBGFの赤字(損失)が発生し、生産が不可能となる。
そこで政府が赤字(損失)額に等しい補助金を与えることで生産が可能となる。しかし、補助金の給付によって企業はコスト削減などの経営努力を怠る可能性がある。そこで、独立して採算がとれる価格規制を行う必要がある。

(3)平均費用価格形成
需要曲線Dと平均費用曲線ACの交点Cで価格をP3に規制することを平均費 用形成原理とよぶ。
このとき生産量はX3、平均費用はAC3となり、価格と平均費用が一致するので、企業に赤字(損失)が発生せず、補助金に頼らない独立採 算が可能となる。
ただし、X3はX2よりも生産量が少ないので、パレー ト最適の実現は不可能となる。
なお、平均費用価格形成原理に基づく価格P3を ラムゼー価格という。

P195