第1章 消費者行動

☆1.予算線  
>1.消費者行動
ミクロ経済学において、個人は「予算制約のもとで効用を最大化する」存在、と仮定される。
予算とは、財・サービスの購入を行う際に考慮する自分自身の所得のこと
効用とは、財・サービスの消費によって得られる満足度のこと
つまり、個人は所得金額の範囲内で満足感をできるだけ高めるように消費を行っていると仮定される。

>2.予算制約式と予算線
消費活動を行う際に制約となるのが予算である。すなわち、個人の所得である。
たとえば20万円の所得しか持たない個人は、その20万円に収まるように購入する財の量を決定する。

(1)予算制約式
X財とY財の2つを消費する消費者の消費行動の制約となる予算は、次の制約予算式で表される。

PxX + PyY =I

Px:X財の価格
Py:Y財の価格
X:X財の消費量
Y:Y財の消費量
I:支出額であり所得額である。
予算制約式は、所得I と価格Px,Pyで最大限購入可能な財の組み合わせX, Yを表す式である。
価格PxとPyから、所得Iのなかで何個買えるかを決める。             


(2)予算線
 予算制約式を図示したものを予算線または予算制約線という。

PxX + PyY  =I       (予算制約式) Income

Y財について解くと
PyY=-PxX + I
Y=    -   Px  X   +    I                                    
              Py               Py 
                              
        傾き(絶対値)            縦軸切片

X=    - Py    X    +    I                                               
                Px                  Px                                        
                                   横軸切片
図1
図1-1予算線
横軸にX財の消費量、縦軸にY財の消費量で、予算線は、右下がりの直線として表される。
予算線は、所得I と価格Px,Pyで最大限購入可能な財の組み合わせX, Yを表す直線である。
予算線上で、財の消費量の組み合わせは決定される。


>3.予算線のシフト
予算線の位置や傾きを決定するのは、所得I、価格Px、Pyである。
よって、これらの値が変化するとき予算線の位置や傾きも変化し、予算線がシフトすることになる。

(1)所得変化と予算線のシフト
所得I の増加(減少)は、横軸切片I/Px、縦軸切片I/Pyを上昇(低下)させる。
しかし、傾きPx/Pyは変化しない。
従って、
所得の増加(減少)は、予算線を右上方向(左下方向)へ平行シフトさせる。

図2

図1-2 所得変化と予算線のシフト

(2)価格変化と予算線のシフト

①X財の価格変化
X財の価格Pxの上昇(低下)は、横軸切片I / Pxを低下(上昇)させ、傾きPx/Pyを上昇(低下)させるが、
縦軸切片I / Pyを変化させない。
よって、X財の価格Pxの上昇(低下)は予算線を縦軸切片(右方)へ回転シフトさせる。
図3                                              

②Y財の価格変化
Y財の価格Pyの上昇(低下)は、横軸切片I / Pyを低下(上昇)させ、傾きPx/Pyを低下(上昇)させるが、
横軸切片I / Pxを変化させない。
よって、Y財の価格Pyの上昇(低下)は予算線を横軸切片(上方)へ回転シフトさせる。図4


☆2.効用関数と無差別曲線
>1.効用関数

効用関数=財の消費量と消費者の効用水準との関係を表す関数 
    財の消費量が多いほど、効用も高くなる = 効用関数は横軸に財の消費量X、縦軸に効用水準Uをとった図にすると右上がりの曲線になる。

図5
図1-4①
X財をX0、X1だけ消費するとき、効用水準は、効用曲線上の点A、点Bで決定し、U0,U1となる。


>2.限界効用
財の消費量を1単位変化させたときの効用の変化分 = 限界効用 MU (Marginal Utility)
図1-4①で消費量をX0からX1へ増加させたとき、効用水準はU0からU1へ増加する。
このときの限界効用は、消費量の増加分⊿X(=X1-X0)と効用の増加分⊿U(=U1-U0)の比
⊿U  (点Aと点Bを結ぶ直線の傾き)として表される。
⊿X

より厳密には、消費量の増加分⊿Xの値をゼロに近づけることにより、点Aにおける限界効用MUは、効用関数上の点における接線の傾きとなる。

また、
効用関数を消費量Xで微分した式dU/dXとして求められる。
 
MU=     lim      ⊿U    =    dU  (効用関数上の点における接線の傾き)
         ⊿X→0  ⊿X            dX     

たとえば効用関数が  
                1
      U=√X    =X 2   より、
                 - 1  
      MU=    dU    =  1   X   2    =   1   
                  dX          2                   2√X

となるので、消費量が4のとき、限界効用はいくつ?

図6

       
限界効用逓減(たいげん)の法則
図1-4②のように、消費量がX0からX1へと増加するほど、限界効用が低下していくことを限界効用逓減(たいげん)の法則という。
財の消費量が増えるほど、追加的に財を消費することから得る効用の増加分が減少すると考えるためである。
たとえば、のどが渇いているとき、1杯目の水より10杯目に飲む水から得られる満足感、つまり効用の増加分は小さくなることをイメージするとわかりやすい。

図7
図4-1②

MUが小さくなる 
= 満足感(効用)が小さくなる
= 限界効用 MU Marginal Utility
財の消費量を1単位変化させたときの効用の変化分(傾き)


>3.無差別曲線と限界代替率
(1)無差別曲線
個人は財の消費から効用を得る存在として仮定しているが、実際には個人は無数の種類の財を消費することで効用を得ている。

ここでは、単純化のために個人は2つの財を消費し、効用を得るものと仮定する。
横軸にX財の消費量、縦軸にY財の消費量をとった図1-5の点AはX財を1単位とY財を9単位消費する消費点(消費量の組み合わせ)を表している。


図8

図1-5無差別曲線                       

横軸にX財の消費量、縦軸にY財の消費量をとった図で、
点AはX財を1単位とY財を9単位消費する消費点(消費量の組み合わせ)を表している。
このとき、X財とY財の2つの財を消費する個人の効用関数が
                   1
U=    X2    Y2
   と表すとすると 個人の得る効用関数は、

  =√9√1=3x1=3
   
B点も効用水準はA点と同じ 
   =√1√3=1x3=3

このように同じ効用水準を与えるような消費点は無数に存在する。
これらの点を結ぶことにより、1本の曲線Uが出来上がる。

個人に同じ(無差別な)効用を与える消費量の組み合わせを表す曲線のことを無差別曲線という。

無差別曲線は無数に描ける。右上に位置するほど、効用が大きい。
効用水準の大きさに応じて無数に無差別曲線を描くことができ、無差別曲線Uの効用は、右上に位置する無差別曲線ほど、効用は大きくなる。


(2)限界代替率

図11
図1-6限界代替率①

Y財のY0を一定にして、X財の消費量をX0からX1へ1単位増加させた場合、消費点はAからA'に移動し、効用は上昇する。

このとき、この個人は効用が低下しない。
つまり、点Aで得る効用と同じとなる範囲ならY財を破棄できるだろう。
よって、この個人は、点Aと無差別な点BまでY財をY0からY1まで減少させることができる。

このように、X財の消費量を1単位増加させたとき、一定の効用水準を維持しながら 
放棄可能なY財の減少分のこと
限界代替率MRS=Marginal Rate of Substitution という
限界代替率は、X財の増加分(⊿X1-X0)とY財の減少分(⊿Y1-Y0)の比 
⊿Y/ ⊿X  (点Aと点Bを結ぶ直線の傾き)で表される。
        
 これは、放棄可能なY財の数量で測った新たに得るX財の主観的価値を表すものである。
より厳密にはX財の消費量の変化分⊿Xをゼロに近づけることいより
点Aにおける
限界代替率 MRSは、無差別曲線上の点における接線の傾きを使って表される。
 
MRS=lim -   ⊿Y    =   - dY 
    ⊿X⇒0   ⊿X          dX


限界代替率逓減(たいげん)の法則 
X財の消費量がX0からX1へと増加するほど、限界代替率が低下していくことを限界代替率逓減(たいげん)の法則という。
図10

X財の消費量が増えるほど、追加的なX財の希少性が低下し、放棄可能なY財が減少すると考えるためである。
りんご(X財)、みかん(Y財)が交換可能であるとき、りんごの消費量が増えるほど代わりに放棄可能なみかんの消費量は減る。つまり、りんごの希少価値が低下すると考えられる。
限界代替率低減の法則が満たされるとき、無差別曲線は原点に対して凸型に描かれる。

>4.限界代替率と限界効用
限界代替率は、限界効用を用いて表すことができる。 

図11

消費点をAからA’まで変化させ、X財の消費量をX0からX1まで増加させたときの効用の増加分を⊿Uxとする。このとき、X財の消費量の増加分⊿X(=X1-X0)と効用の増加分⊿Uxの比⊿Uxは、X財の限界効用MUxを現す。                                                                                                                      ⊿X

一方、消費点をA’からBまで変化させ、Y財の消費量をY0からY1まで減少させたときの効用の減少分を⊿Uyとする。このとき、Y財の消費量の減少分⊿Y(=Y1-Y0)と効用の減少分⊿Uxの比⊿Uyは、Y財の限界効用MUyを現す。                                          ⊿Y
   
MUx=⊿Ux 
     ⊿X  

MUy=⊿Uy
     ⊿Y
 
・・・・・① 

限界代替率とは、X財の消費量を1単位増加させたとき、「一定の効用水準を維持しながら」放棄可能なY財の減少分のことであるから、⊿Ux>0、⊿Uy<0に注意すると、限界代替率は次の条件を満たさなければならない。

⊿Ux=-⊿Uy        ・・・・・②

①の式を⊿Uxと⊿Uyについて解き、②に代入する。   
   
MUx・⊿X=-MUy・⊿Y    

MUx =- ⊿Y
MUy          ⊿X


右辺は限界代替率に等しい。
したがって、限界代替率MRSは、限界効用MUの比に等しいといえる。

MRS=-⊿YMUx
       ⊿X  MUy
   


>5.基数的効用と序数的効用
(1)基数的効用
効用が絶対的な尺度で測定できるという観点から消費者行動を分析する手法基数的効用分析という。
ジェボンズ、ワルラス、マーシャルといった19世紀の経済学者たちは、人間の体重や身長と同様に効用を測定が可能であると考えた。(効用の可能性)  そのため、効用の加減が可能であるとされた。

たとえば、個人A:10の効用、個人B:5の効用のとき、合計 :15の効用であると計算される。
しかし、この計算が可能になるためには、すべての個人の効用、あるいは満足感が共通の尺度で測れることを仮定しなければならない。
なお、限界効用逓減(たいげん)の法則は、個人の中で効用の絶対数値の測定を可能とする基数的効用関数を前提とするものである。

(2)序数的効用関数
効用の大きさの順序のみを前提に消費者行動を分析する手法序数的効用分析という。
20世紀に入りヒックスによって、効用の大きさの順序のみを前提とする無差別曲線分析が確立された。
無差別曲線分析では、基数的効用を必要としない。

たとえば、みかん1個とりんご1個を消費するよりも、みかん1個とりんご2個を消費するほうが効用が大きいことさえ分かれば無差別曲線を導くことは可能である。
また、無差別曲線分析で得られる結論のほとんどは、効用の可測性を仮定しなくても得ることが出来るものである。効用の可能性という強い仮定をおかなけばならない基数的効用よりも、 効用の大きさの順序だけ分かれば消費者行動が分析できるという弱い仮定だけで消費者行動分析が可能になるので、現在では、序数的効用を前提とした分析を行っている。


☆3.最適消費点と無差別曲線分析
>1.効用最大化条件  


ある一定の所得のもとで、個人の効用を最大化する消費点を
最適消費点とよぶ。
図1-7には、1本の予算線(I、I')と3本の無差別曲線(U、U'、U'')が描かれている。
このとき、最適消費点は
予算線と無差別曲線の接点となる点Eとなる。 
(これに対し、点Aは予算制約線と無差別曲線の交点である。)

効用の大きさだけを考えると、右上方向へ位置する無差別曲線ほど効用が大きいので、点Cが最も効用が大きく、続いて点Dと点E,次に点Aと点Bとなる。

しかし、所得Iのもとで購入可能な財の組み合わせを表す予算線を越えて消費することはできないため、予算線より右上方向に位置する点Cと点Dは、実現不可能である。


よって、実現可能な消費点で最も効用が大きくなるのは最適消費点Eであり、最適な消費量は、X*、Y*である。 

図12
図1-7 最適消費点

X財とY財の限界効用MUの比である限界代替率MRSは、点Eにおいて予算線の傾きの絶対値である価格比に等しい。よって、効用最大化条件は、

Px
= MUx      
Py    MUy

=MRS

このように、 無差曲線を用いて個人の最適消費行動を分析する手法無差別曲線分析という。



☆4. 所得変化の効果
>1.上級財・下級財・中立財
所得の変化が需要量にどのような影響を与えるかは、財の種類いよって異なる。
①所得が増加(減少)すると需要量も増加(減少)する財=上級財または正常財
例) ビール、液晶テレビ、ファーストクラス
                                    高低による違い
②所得が増加(減少)すると需要量は反対に減少(増加)する財=下級財(劣等財)    
例)発泡酒、ブラウン管テレビ、エコノミークラス

③所得の増減に関わらず、需要量が一定となる財=中立財(中級財)
例) トイレットペーパーなど


>2.所得消費曲線    
所得の変化は、予算線をシフトさせる。
これは 、個人の最適消費点を変化させることになる。
                         
所得消費曲線とは、所得変化にともなう最適消費点の変化を示す曲線である。
各財の種類の組み合わせによって、X財とY財を消費する個人にて、所得消費曲線は、5通りになる。

図13


図14

上の2つの図は、最適消費点としてE0、最適需要量としてX0、Y0が示されている。
ここで、所得の増加により、予算線が右上方向へシフトしたとき、所得消費曲線は、E0と変化後の最適消費点(E1~E4)を結ぶ曲線として描かれる。


>3.エンゲル曲線     
所得の変化は、個人の財の需要量を変化させることになる。
エンゲル曲線とは、所得の変化と需要量の変化の関係を示す曲線である。

X財を消費する個人にとって、財の種類(上級財、下級財、中立財)により、3通りのエンゲル曲線を描くことができる。また、財の性質(必需品、奢侈(しゃし)品)により2通りのエンゲル曲線を描くことが出来る。
 
(1)上級財・下級財・中立財のケース                       
図15

縦軸は所得Iで、所得がI0からI1へ増加すると、
X財が上級財の場合、需要量は増加するので、E1はE0よりも右上方に位置する。
X財が下級財の場合、需要量は減少するので、E1はE0よりも左上方に位置する。
X財が中立財の場合、需要量は不変なので、E1はE0の真上に位置する。
よって、エンゲル曲線は、上級財のとき右上がり、下級財のとき右下がり、中立財のとき垂直となる。


(2)必需品・奢侈(しゃし)品のケース
図16

上級財は、財の性質によりさらに必需品と奢侈品に分かれる。
必需品とは、食料品などのように生活に必要となるような性質をもつ財である。
奢侈品とは、ぜいたく品などのように生活に必ずしも必要とはいえないような性質をもつ財である。

必需品は、所得の大小に関わらず必要な量を一定量購入しているので、所得が増加するほど需要量(X)の増加分は減少し、新たな需要量は点E1でX1となる。

奢侈品は、所得の大小によって購入量は大きく変化するので、所得が増加するほど需要量の増加分は拡大し、新たな需要点はE1' でX1'となる。
よって、エンゲル曲線は、必需品のとき下に凸の右上がりの曲線、奢侈品のときに上に凸の右下がりの曲線となる。



>4.需要の所得弾力性
(1)需要の所得弾力性 εI
    需要の所得弾力性εIとは、所得の変化率に対する需要量の変化率
               
         ⊿X
εI =   X    
         ⊿I
            I

・・・・・・・・①
 
⊿X
  X  は、需要の変化率 
⊿I
  I は、 所得の変化率


①の式を変形させると
εI = ⊿X ・   I 
    ⊿I        X


上式を微分すると  
εI = dX ・   I 
    dI        X


・・・・・・・・②

dX

 dI
  は、「X=~」で始まるエンゲル曲線を所得Iで微分した式である。



(2)財の種類・性質と需要の所得弾力性
財の種類(上級財・下級財・中立財)および財の性質(必需品・奢侈品)によって、所得の変化と需要量の変化の関係は異なる。

所得が増加するとき、所得の変化率は正の値をとるので、式①の分母の値は、常に
⊿I
  I  >0
 となる。

①上級財・下級財中立財のケース
☆X財が上級財の場合、所得が増加すると需要量が増加するため、需要量の変化率は正の値をとる。
よって、式①の分子は⊿X  >0 となる。
                 X 

☆X財が下級財の場合、需要量が減少するため、需要の変化率は負の値をとる。
よって、式①の分子は⊿X  <0 となる。
                 X 

☆X財が中立財の場合、需要量は不変のため、需要量の変化率はゼロになる。
よって、式①の分子は⊿X  =0 となる。
                 X 
      

所得の変化率の値 ⊿I >0 と
            I  

上記の財ごとの需要量の変化率の値を 需要の所得弾力性の式①に代入すると、
需要の所得弾力性は、上級財のとき正の値 (εI >0)、下級財 のとき負の値(εI <0)、中立財のときゼロ (εI =0)となる。


②必需品・奢侈品のケース
☆X財が必需品の場合、所得が増加しても需要量の増加は小さいため、需要量の変化率は所得の変化率より小さくなる。
よって、⊿X⊿I  となる。
        X   I 
☆X財が奢侈品の場合、所得が増加すると需要量は大きく増加するため、需要の変化率は所得の変化率より大きくなる。
よって、⊿X⊿I  となる。
        X   I 
   
これらの所得の変化率の値 と需要量の変化率の値を需要の所得弾力性の式に代入すると
需要の所得弾力性は必需品のとき1より小さく、奢侈品のとき1より大きくなる。

上級財の性質 需要の所得弾力性
    必需品    εI >1
    奢侈品    0<εI <1




☆5. 価格変化の効果

>1.価格消費曲線 
価格の変化は、予算線をシフトさせる。これは、個人の最適消費点を変化させることになる。
価格消費曲線とは、価格変化にともなう最適消費点の変化を示す曲線である。

図17
図1-11 価格消費曲線

当初の最適消費点E0が示されている。ここで、X財の価格Pxの低下により、予算線が右方へシフトし、最適消費点がE1に変化したとする。
価格消費曲線は、E0と変化後の最適消費点E1を結ぶ曲線として描かれる。



>2.相対価格と実質所得
ある財の価格の変化は、相対価格と実質所得という2つの要因を通じ、需要量を変化させる。
          
(1)相対価格
別の財の価格と比べた、ある財の価格水準のこと相対価格という。

X財とY財の2つの財が存在する場合、

X財の相対価格は、Px (Y財の価格)となる。
              Py 

Y財の相対価格は、Py (X財の価格)となる。
              Px 


たとえば、ある個人が同品質の飲料水XとYを購入しているとしよう。
ここで、X財の価格Pxが低下すると、Y財に対してX財が割安となるため、この個人はX財の購入量を増やすであろう。
一方、Y財の価格Pyは不変のままであるが、Pxが低下したことにより、X財に対してY財は割高となるため、この
個人はY財の購入量を減らすであろう。

このように、X財の価格低下は、X財の相対価格を低下、Y財の相対価格を上昇させることで、需要量を変化させる。 


(2)実質所得
実質所得とは、円やドルなど貨幣単位ではかった所得(これを名目所得とよぶ)ではなく、購入可能な財の数量単位ではかった所得のことであり、下記で表される。

 I  =   所得  
 P   財の価格

たとえば、ある個人が、1000円の所得、ある財の価格が100円であるとすると、この個人は財で10個分の 実質所得を得ていることになる。 ここで、名目所得が1000円のまま、この財の価格が50円に低下したとすると、この個人の実質所得は、財で20個分に増加する。

これは、1000円の購買力が上昇することを意味し、これを実質所得の増加という。
このような 実質所得の変化も個人の需要量を変化させる。



>3.代替効果・所得効果・全部効果
価格変化は、相対価格と実質価格を変化させる。
図1-11における点E0から点E1への最適消費量の変化は、この2つの合成によるものである。

図17
図1-11 価格消費曲線

この2つの変化が需要量に与える効果を個別に分析するために用いられるのが、代替効果と所得効果である。この2つの効果の合計であるE0からE1への最適消費点の変化全部効果と呼ぶ。


 図1-12は、X財の価格Pxが低下するケースで、図①代替効果、図②所得効果が描かれている。

 (1)代替効果
代替効果とは、効用水準を一定として、相対価格の変化が個人の需要量に与える効果のことである。

効用を一定にする理由は、価格が変化しても個人の購買力が一定なら、財の消費から得られる効用も一定となる。よって、効用水準を一定にすることは、購買力をあらわす実質所得を一定と仮定することに他ならないからである。

図1-12 代替効果・所得効果・全部効果
図19
図①代替効果(Px低下)

X財の価格がPxからPx’に低下することにより、予算線はI-IからI-I'へシフトし、最適消費点は、無差別曲線U0上の点E0からU1上の点E1へ変化し、需要量は、X0とY0からX1とY1へ変化する。
このとき、X財の相対価格は、予算線の傾きである価格比で示され
 Px 
から   Px' に低下する。
 Py     Py

直線A-Aは、変化前の無差別曲線U0に接し、変化後の価格比Px' と同じ傾きをもつI-I'に平行な直線である。
                                     Py           
直線A-AとU0の接点E0’は、効用をU0で一定とし、変化後の相対価格のもとでの最適消費点である。

このとき、最適消費点は、E0からE0'、需要量は、X0とY0からX0'とY0'に変化しており、これを代替効果という。
このように、代替効果は相対価格の低くなった財の需要量を増加、相対価格の高くなった財の需要量を減少させる効果をもつ。


(2)所得効果 
所得効果とは変化後の相対価格の下で、実質所得の変化が個人の需要量に与える効果のことである。

図20
図②所得効果(Px低下)

最適消費点のE0'からE1、需要量のX0'とY0'からX1とY1への変化が、所得効果である。
図②では、X財、Y財ともに需要量は変化しているが、所得効果(実質所得の変化による需要量の増減)は、財の種類(上級財、中級財、下級財)によって異なる。

図②では、実質所得の増加によって需要が増加しているので、X財とY財がともに上級財のケースを表している。
 もし、中立財ならば、実質所得の増加によって需要は変化せず、下級財ならば、実質所得の増加によって需要は減少することになる。


図21

 図③代替効果(Px上昇) 

図22

図④所得効果(Px上昇)

図③と④は、ともに上級財で、X財の価格Pxの上昇により相対価格Px/Pyが上昇、 実質所得が減少した場合の代替効果と所得効果を示したものである。



>4.財の種類と需要曲線
需要曲線とはある予算制約の下で、効用を最大化するときの価格と需要量の関係を表す曲線のことである。

図1-13の図①~図③の下図(無差別曲線分析)において、効用を最大化する最適消費点は、当初、予算線I-Iと無差別曲線の接点E0で与えられている。また、図①~③の上図には、X財の需要量Xと価格Pxの組み合わせがとられ、価格Px0がとられている。

このとき、上図の(X0、Px0)の組み合わせの点E0は、下図の最適消費点E0に対応していて、効用を最大化するときの価格と需要の組み合わせとなっている。
ここで上図において、価格がPx1まで低下すると、下図において予算線はI-I'へシフトする。
この結果、代替効果により、需要量は直線AAと無差別曲線の接点E0'で決定するX0'に増加する。

 一方、所得効果による財の需要量の増加は、財の種類によって異なるため、需要曲線が必ずしも右下がりになるとは限らない。なお、図①~③においてY財は上級財とする。

(1)上級財
図1-13 財の種類と需要曲線
図23
図① 上級財

図①はX財が上級財の場合を表している。X財の価格Pxの低下は実質所得を増加させるので、X財が上級財の場合、所得効果としてX財の需要量はX0'からX1まで増加する。最適消費点は、図①の下図においてE0’の右上に位置する点E1へ変化する。
このとき、図①の上図の(X1,Px1)の組み合わせの点E1は、下図の最適消費点E1に対応しており、上図の点E0と点E1を結ぶことで右下がりの需要曲線を求めることができる。


(2)X財が下級財の場合
図1-13 財の種類と需要曲線
図24
図② 下級財

図②はX財が下級財の場合を表している。X財の価格Pxの低下は実質所得を増加させるので、X財が下級財の場合、所得効果としてX財の需要量はX0'からX1まで減少する。最適消費点は、図②の下図においてE0’の左上に位置する点E1へ変化する。
このとき、図②の上図の(X1,Px1)の組み合わせの点E1は、下図の最適消費点E1に対応しており、上図の点E0と点E1を結ぶことで   右下がりの需要曲線を求めることができる。


(3)X財がギッフェン財(超下級財)の場合

図1-13 財の種類と需要曲線
図25
図③ ギッフェン財

図③はX財がギッフェン財(超下級財)の場合を表している。
ギッフェン財とは所得効果が代替効果を上回るような下級財のことである。
X財の価格Pxの低下は実質所得を増加させるので、ギッフェン財が下級財の一種であることから、X財の需要量は所得効果によって、X0'からX1まで減少する。 また、所得効果が代替効果を上回るので、需要量は当初のX0よりも減少し、最適消費点は図③の下図において点E0'の左上に位置する点E1に変化する。
このとき、図③の上図の(X1,Px1)の組み合わせの点E1は、下図の最適消費点E1に対応しており、上図の点E0と点E1を結ぶことで 需要曲線を求めることができる。
このとき、価格の低下にも関わらず、X財の需要量は減少しており、通常と異なる右上がりの需要曲線となる。


>5.価格変化と需要量の変化  
X財の価格低下による需要量の変化は、代替効果と所得効果に分けられる。代替効果では、相対価格の低く(高く)なったX財(Y財)の需要量は、増加(減少)する。
また、X財の低下によって実質所得が増加するため、所得効果では、上級財の需要は増加し、下級財の需要量は減少する。

また、下級財の一種であるギッフェン財の場合、所得効果が代替効果を上回る。
以上のことをふまえ、X財の価格低下の効果は、次の表にまとめることができる。 

図1-14 X財の価格低下の効果
図26



☆6.無差別曲線の性質と特殊な無差別曲線 
>1.無差別曲線の性質

先に紹介した無差別曲線は次のような特徴をもつ。
① 右上がり
② 原点から離れる(右上)ほど効用が大きい
③ 原点に対して滑らかな凸型 
④ 互いに交わらない

                  
図11
図1-6

①と②は、消費量が増加したときに得る効用を正と仮定するからである。
点Aから点A’までX財の消費量を増加させると、効用が増加するため、効用水準を一定に保つためには、点A’から点BまでY財の需要を減少させなければならない。
このとき、点AからBを結ぶ無差別曲線Uは、右下がりとなり、 点A’の存在する無差別曲線U’はUよりも効用が大きい。

③は、限界効用逓減(たいげん)の法則を仮定するからである。
④は、推移性を仮定するからである。
もし、下図のように無差別曲線が交わるならば、推移性は満たされない。 無差別曲線が交わるとき、その交点をCとすると、点AよりBが好まれ、点Bと点Cが無差別にもかかわらず、点Aと点Cが無差別となってしまい選好関係に矛盾が生じる。
 したがって、推移性が満たされるならば無差別曲線は、交わらない。  

図28


>2.特殊な無差別曲線
(1)完全補完型 
完全補完方の無差別曲線は図1-15の図①のようにL字型となる。
 
図29
 図1-15①完全補完型

たとえば、右足と左足の靴に対する無差別曲線などが上げられる。
X財を右足の靴、Y財を左足の靴、当初の消費点をAとしよう。
ここで、右足または左足の靴のみを増加させ、消費点がBまたはCに移動しても効用は一定のままである。
よって、無差別曲線はL字型となる。
右上に位置する無差曲線ほど効用が高いため、予算線I-Iのもとで効用を最大化する最適消費点はEとなる。
 どのように予算線を引いても、予算線と無差別曲線の接点である
最適消費点は常にL字型のコーナーとなる。

 
(2)完全代替型・限界代替率一定
完全代替型の無差別曲線は図1-15の図②のように右さがりの直線となる。

図30
図1-15図②完全代替型・限界代替率一定
 
たとえば、50円玉と100円玉に対する無差別曲線があげられる。
X財を50円玉、Y財を100円玉、当初の消費点をAとしよう。
ここで、100円玉を1単位だけ増加あるいは減少させ、消費点がBあるいはCに移動したとき、効用を一定に保つためには、50円玉を2単位だけ減少あるいは増加させなければならない。

よって、無差別曲線は右下がりの直線となり、無差別曲線の傾きである限界代替率は一定となる。
右上に位置する無差別曲線ほど効用が大きいため、予算線I-Iのもとで効用を最大化する最適消費点はEとなり、限界代替率も予算線の傾きが(穏やか)なとき、Y財(X財)のみを消費することになる。

このように、縦軸、横軸にある消費点を端点と呼ぶ。なお、限界代替率と予算線の傾きが一致するとき、予算線のどの点も最適消費点となりうる。


(3)限界代替率逓増(たいぞう)型
限界代替率逓増型の無差別曲線は、図1-15の図③のように原点に対して凹型となる。

図31
図1-15 図③限界代替率逓増(たいぞう)


この場合、図1-7のような一般的無差別曲線分析の結果のように、X財とY財を組み合わせて消費するような予算線と無差別曲線の接点となる点が、最適消費点とはならない。

図12
図1-7 最適消費点

右上に位置する無差別曲線ほど効用が大きいことから、予算線I-Iのもとで効用を最大化する最適消費点は、点Aとなり、    どのように予算線を引いても、最適消費点は縦軸、または横軸の端点となる。

これは、X財、Y財がどのような価格であっても、この個人がX財またはY財へ偏った消費しか好まないことを示している。このような例として、日本酒とウイスキーを一緒に飲むより、片方だけを好む個人の無差別曲線などが上げられる。