第11章 製品計画
☆1.製品概念と製品コンセプト
>1. 製品概念とその拡張

(1)製品概念
一般に製品とは「有形財」を指している。その一方で「無形財」を指してサ ービスと呼ぶ。本テキストでは、製品を「製品とは、ニーズまたはウォンツを満たしうると考えられるあらゆるもののことである。」と定義する。
したがって製品とは、物やサービスだけではなく何らかの活動、人間、場所、 組織、アイデアでもありうる。

(2)製品概念の拡張
このように製品概念は従来の範囲より拡張されている。例えば次のようなものがあげられる。
①非営利機関の提供しているもの
②廃棄物
③従来自由財(無料)と考えられたもの
④拡大製品

①に関しては、前述したようにP.コトラーS. J. レビーが『マーケテ ィング概念の拡張』という論文において、いままでマーケティングが対象としていた財の領域を拡張したのである。それまではマーケティングが対象とする財は『市場取引』のできる財であったが、それを『交換』のできる財として対象領域を広げた。つまりマーケティングが対象としていたものは営利企業であったが、それを非営利機関にも適用できるとしたのであった。
②はリサイクルとしての廃棄物であり、③は、空気などである。
④に関しては、P·コトラーは財を次のように5つの次元に分類している。

図表11-1 製品の5つの次元

(円の中心から外側へ)
中核ベネフィット
一般製品
期待された製品
拡大された製品
潜在的製品

コトラー『マーケティングマネジメント第7版』プレジテット、1996年、413ページ


>2. 製品コンセプトの重要性
人は物としての製品そのものを購買するのではなく、その便益や効用を購買する。ここで重要なのが、「製品コンセプト」の考え方である。製品コンセプトとは、製品および商品を単なる物質的なものとしてとらえるのではなく、マーケ ィング志向の立場から、消費者は便益および効用を購買しているという視点に立ち、消費者満足を目標とした製品計画を行う考え方である。

鉄道産業を例に取ってみよう。たとえば、旅行や通勤の際に利用者(消費者)は運賃を支払うが、これは乗車券に対してでもなければ鉄道そのものに対してでもない。『移動』という便益に対して、消費者はお金を支払っているのである。あるいは単なる『移動』だけではないかもしれない。『移動』だけならばバスや 飛行機もあり、別の便益も考えられる。この意味で、企業は自社の提供している製品のコンセプトを、消費者の立場から考えなければならないのである。そうなければ、企業は自社の競争企業が、本当はどこであるかを規定できない。



☆2. 製品の種類
取引される製品は、それが消費される目的の観点から、消費財(消費者用品)と産業財(産業用品)に大別される。
消費財は消費者の日用生活で消費または使用される製品であり、産業財は製造、 他社への転売などを目的とする製品である。

製品
 消費財
   最寄品
   買回品
   専門品 

産業財


図表11.2 消費財と産業財の比較
               消費財          産業財
顧客の数          多い           少ない
顧客の地域的分布   分散している      集中している
購買単位          小さい          大きい
需要の価格弾力性    大きい          小さい
購買者の能力     一般消費者 (知識なし)   専門家集団(専門能力あり)


消費財はその購入のされ方によって、最寄品、買回品、専門 品に分けられる。

①最寄品
消費者が最寄者が最寄りの商店で日常頻繁に購入する比較的安価な製品であり、食料 品、週刊誌、日用雑貨品などがこれに当たる。

② 買回品
消費者がいくつかの商店を見て回り、価格や品質、デザインなどを比較検討してから購入する製品で、価格が比較的高いのが普通である。洋服、家具, くつなど。

③専門品
特定のメーカーまたは取扱製品の技術や名声を信頼し、特にこれを指定して購入する製品であり、自動車、ピアノ、宝石などのような高価品が多いといえる。専門品の場合には、消費者はかなり遠く離れたところまでも労をいとわず買物に出かけることも特徴的である。

 なお、最寄品、買回品、専門品の違いをまとめると次のようになる。

図表11-3 最寄品、買回品、専門品
         最寄品       買回品     専門品
購買努力     小         中      大
購買頻度      高         低      ごく低い
価格        安い         中      高い
購買行動   習慣的·衝動的   比較購買    計画購買
具体例    日用品,食品     家具·家電   高級紳士服·貴金属

産業財のマーケティングは、産業財マーケティングまたはインダストリアル. マーケティングと呼ばれる。ビジネス市場にて行われるため、BtoBマーケティ グと表現されることもある。より具体的には、一般企業、学校、病院、行政機関などの公式組織によって購買される商品やサービスのマーケティングを指す。


☆3.製品ポジショニング分析

製品ポジションとは、その製品の重要な属性を消費者がどのように定義しているか、言い換えれば競合品と比較した上で、消費者の意識のなかで占めているポジション(位置)のことである。

多くの企業が、自社の「ちがい」をアピールする際、競争相手企業との比較を行い、どの「ちがい」をアピールするのが最も効果的であるかを考える。そうした「ちがい」(競争優位)をよりわかりやすい形で表すために、普通は「ちがい」を決定する主要な要因を2つ設定し、それらをタテ軸とヨコ軸にした座標を作り、それぞれの企業ないし製品の特徴を座標軸上にプロットする。

製品を消費者に提供する企業は、選択されたターゲット市場において、 自社の製品に最大の利益を与えるようなポジショニングを計画する際に、競争優位と劣位を競合他社と比較し、競合製品から自社製品を差別化し、強力な競争優位を得られるようなポジションを選択すべきである。

例)缶ビールのポジショニング分析

          <キレ>
            アサヒ スーパードライ
     サントリー モルツ
 <苦み>               <さわやかさ>
   キリン ラガー
       サッポロエビス
          <コク>


☆4.製品ミックス
>1. 製品の階層構造
製品には次のような階層構造がある。
 
①製品ライン
じような機能、顧客、販路、価格水準を持つという点で密接に関連づけられる製品グループ

②アイテム
製品ラインの中でサイズ、価格、外見、その他の特性で区別 される単位

③製品ラインの長さ
製品ライン内のアイテム数 また、製品ミックス(製品アソートメントともいう)とは特定の売り手が買い 手に販売する、あらゆる製品ラインおよびアイテムの組み合わせのことである

④製品ミックスの幅
製品ラインの数(図表11-4では6つの製品ライ ンが示されている。)

⑤製品ミックスの長さ
製品ミックスに含まれる全アイテム(ブランド) の数(図表11 . 4では42)

⑥製品ミックスの深さ
製品ライン内の各製品(ブランド)ごとにどれくらいの種類(バージョン)があるかを示す。
[例えば、クレストには3つのサイズがあり、中身は2種類(レギュラーとミント)があるとすれば、クレストの深さは6となる.]

製品ミックスは単なる物理的な組合わせではない。企業の製品戦略に基づい て構成されていく。

図表11-4 製品ライン・製品アイテム・製品ミックスの相互関係
縦軸:製品ミックスの長さ
横軸:洗剤 製品ミックスの幅

練り歯磨き   固形石けん  脱臭剤   フルーツジュース   ローション
アイボリースノー  グリーム   アイボリー  シークレット  シトラス・ヒル   ワンドラ
ドレフト        クレスト    キャメイ    シュア      サニー·デライト  ノクセマ
タイド         コンプリート  ラパ ジョイ            ウインター·ヒル オイルオプオレイ
ジョイ        デンケル    カークス             テクサン      キャメイ
チアー                ゼスト              リンカーン      レインツリー
オキシドール             セーフガード          スピース·ファーム  トロピック·タン
ラダッシュ               コースト                         バンド ソレイユ
カスケード               オイルオブオレイ
アイボリー·リキッド
ゲイン
ドーン
アリエール
エラ
ボールドスリー
リキッド·タイド

出典:フィリップ·コトラー、ゲイリーアームストロング著
『コトラーのマーケティング入門』第4版恩蔵直人監修、月谷真紀訳298ページ
表8-2選ばれたP&G製品に見られる製品ミックスの幅と製品ミックスの長さ 製品ミックスの長さ


p208

☆5.製品ライフ・ サイクル戦略
>1. 製品ライフ・サイクル
企業は、新製品が市場に導入された後に、その製品ができる限り長い寿命を持ち、その間できる限り多くの売上高と利益を享受できるようにと願っている。し かし、現実的にその製品が永久に寿命をもつということは考えられないので、リスクと努力を考慮しつつ、その製品相応の利益を回収しようとするのである。

そこで製品ライフ・サイクル(Product Life Cycle : PLC)の考え方が重要に なってくる。製品ライフ・サイクルとは、新製品が市場に導入され、成長段階、 成熟段階、衰退段階を経て廃棄されるまでのプロセスを、生物学上の「個体」の 生涯(誕生-成長-成熟-死亡)になぞらえたモデルである。
製品が導入された時期と衰退しそうな時期とは購買者の行動が変わっており それに対応した戦略を策定しなければならない。

ただし、注意しなければならないのは、ライフ·サイクルの段階や形状についてはさまざまな議論がなされてきており、必ずしもすべての製品が以下のライブフ・サイクル曲線を辿るというわけではない。以下の図及び各期の特徴は、各種教 科書のおおよその共通点を記述したものである。

図表 11-5 製品ライフサイクル

売上高·利益高
横軸:時間

売上高
利益高

導入期  成長期 成熟期 衰退期.


和田充夫,恩蔵直人·三浦俊彦「マーケティング戦略第3版」 有斐閣, 2007年, 179ページ


p209

(1)導入期
製品は市場に導入されたばかりで、売上も大きくはない。消費者にその製品を認知してもらう (市場を創造し、自社製品の知名度を高める)ため、広告やプロモーション活動を多く行う込要がある。 市場規模は小さく競合製品の数も少ないので、競争はあまり激しくない。売上高が低いとともに、研究開発費や広告、プロモーション費などの初期コストが多くかかるので利益も出ず、多くの場合は赤字である。

(2)成長期
導入期におけるマーケティング活動の効果により、消費者に製品が認知され、製品に関する知識が定着し始め売上高や利益は急速に伸びてくる。同時に、全体としての市場規模も急成長し、同業者も多数参入し類似製品が増加してくるので、競争も激化する。この現象が需要量をさらに増大させ、利益を生じさせ、 次の成熟期に向かって利益を増大させていく。

しかし、成長期の後半には売上高が伸びているにもかかわらず、利益は早く もピークに達してしまうことが多い。それは、競争激化に対応した市場占有率 の維持 拡大、すなわち多数の競合製品のなかで自社の製品を選らんでもらうことにブランド選好)を狙っての戦略手段として、価格の引き下げ、プロモ ーション・コストの増大、既存製品の改良ないし新製品の開発、流通業者対策 費の増大などが生じるからである。


(3)成熟期
製品が潜在顧客まで隅々までいきわり、市場占有率、売上高がピークに達し、 やがて成長率が低迷し鈍化し飽和点を迎える。しかし、製品に対する選好が安 し、ブランド·ロイヤルティが確立する。新規購入の需要よりも、買い替え 需要や買い増し需要が増大するようになる。

しかし、他方で、市場が拡大しない状況で、前の成長期の後半から続いてきた激しい競争の結果、市場競争に敗れ、市場から撤退する企業も現れ始める。 

売上高を増大させるには、他社製品のシェアを獲得するなど激しいシェア競いが展開される。こうした競争状況のもとで自社製品の維持ないし拡大のため マーケティング・コストは不断に増大するとともに、急速に価格の引き下げ が行われる。需要の頭打ち現象とも相まって売上高も利益も下降線を辿る。

また、製品ごとの技術的な差が縮小し、技術面での競争優位を確保する が困難になるので、基本機能からパッケージなどの副次的な部分での差別化 付随的な機能での差別化が進む。
広告においては、製品の特徴を説明する説得的なものより、イメージ 広告が 重視されるようになる。


(4)衰退期
従来の製品を超える新製品が登場したり (ex.レコード盤からCDへ)、消費 者の嗜好が変化したりして、その製品が受け入れられなくなり、売上、利益と もに確実に減少し利益も生まれなくなってくる。そのため、なるべく「収穫」 を多くするために、事業に投入する資金を減少させていく。
また、この時期では、いかにして円滑に市場から撤退していくかの決断が重要となる。

 図表11-6製品ライフ サイクルの特徴と企業の反応
                     導入期    成長期     成熟期        衰退期
各段階の特徴売上高         低い     急成長     低成長        低下
利益                  マイナス   ピーク到達    低下へ       低いかゼロ
キャッシュフロー            マイナス   ほどほど     高い        マイナスへ 
競合企業               ほとんどなし   増加      多い         現象
企業の反応 マーケティング目標  市場拡大   市場浸透   シェア維持      生産性の確保
マーケティング支出          高い       高い     低下していく       低い
マーケティングの重点         製品認知  ブランド選好 ブランド·ロイヤルティ  選択
製品                  基礎開発    改良        差別化        縮小
流通チャネル               未整備    拡張的      拡張的        選択/限定
価格                     高い    やや低い     最低         上昇

「マーケティング·ベーシックス」(社) 日本マーケティング協会編P. 128、図表6.2 及び「MBAマーケティング」数江良ー[監修]株式会社グロ
ービス[著]ダイヤモンド社P.134図表3-24 参照、一部修正加筆


製品ライフ·サイクルの考え方には、つぎのような批判がされている。
① ライフ·サイクルのパターンが、あまりにも多様である。
②ライフ·サイクルの各段階の持続期間が予測できない。
③製品がライフ サイクルのどの位置に存在しているのかが不明確。


>2. 計画的陳腐化
(1)計画的陳腐化
多くの製品ば、先に見てきたような製品ライフ·サイクルに従って市場に導入され、市場から消えてゆく。このことを陳腐化という。
こうした陳腐化を計画的かつ定期的に生じさせることで新たな買替需要を喚起しようとする製品戦略が、計画的陳腐化である。

(2)計画的陳腐化の種類
計画的陳腐化には次の3つがある。

①物理的陳腐化
比較的短期間の内に製品の物理的寿命がきて、新製品との買い換えを促進 するもの。

②機能的陳腐化
技術革新や製品改良により、旧モデルを取り替えるもの。

③心理的陳腐化
旧製品を使用している消費者に時代遅れの感覚を持たせようとするもの。
スタイル陳腐化、ファッション陳腐化とも呼ばれる。


☆6. 製品差別化戦略
>1. 製品差別化戦略としてのブランド戦略

製品差別化戦略で重要なのはブランド戦略である。
ブランドとは、「名前、用語、サイン、シンボルあるいはそれらの組み合わせで売り手の商品を競争者から区別する目的でつけられたもの」のことである。つまり、いわゆる高級ブランドだけでなく、あらゆる製品、サービスについて他の売り手やメーカーから区別するものである。

ブランドを表現するものとして、つぎのものがあげられる。
ブランド·ネーム:ことばとして表現されたブランドの部分で、発音可能である。
ブランド・マーク:シンボル、デザイン、色などで言葉で表現できないプラン の部分。

ブランド戦略の主な目的は次の2つである。
①ブランドを設定することによってイメージを高める。
②ブランドロイヤルティを確立する。

このようなブランドによる目的の達成は消費者の再購買につながり、他社の競合製品へのブランドスイッチを防ぐことができる。

(1)ブランド設定に関する決定
製品にブランドをつけるか否かは重要な問題である。しかし、ブランドをつたからといって必ず売れるわけではない。逆にブランドをまったくつけない戦略も出てきている。ノーブランド戦略あるいはジェネリックブランド戦略 といわれ、ナショナルブランドよりも低価格である。

(2)ブランド設定者の決定
ブランドを設定するにあたって、だれがブランドを設定するかが問題である。主として全国的な製造業者がつけるブランドをナショナルブランド(NB) といい、中間業者(小売業者、卸売業者)がつけるものをプライベートプラン (PB) という。

図表11-7 ブランド設定に関する決定のフローチャート

ブランド設定に関する決定
製品のためにブランドを開発すべきか

* ブランドをつける
* ノーブランドにする

プランド設定者の決定 
誰がそのブランドを設定すべきか

*製造業者ブランド
*流通業者ブランド

ファミリーブランドについての決定
個別ぶらんどにすべきかファミリーブランドにすべきか

* 個別ブランド・ネーム
*ファミリーブランド・ネーム
*企業/個別 ブランド・ネーム

複数ブランドについての決定
同じカテゴリーで複数のブランドを開発すべきか

* 単一ブランド
* 複数ブランド


(3)ブランド名の決定
自社製品をブランド化することを選んだ企業においては、少なくとも次の4 つのブランド戦略からの選択が行われる。

①個別ブランドネーム戦略
個々の製品に個々のブランドネームをつける。

②統一ファミリー·ネーム戦略
すべての製品に統一したファミリー·ブランドネームをつける。

③複数ファミリー·ネーム戦略
同じ製品クラス の中で、異なった品質水準に合わせてそれぞれのファミリ ー·ネームを開発する。

④個別ブランドと企業名との組み合わせ戦略
ダブル·ブランドまたはダブルチョップといわれる。


ブランド ネームは、製品コンセプトを強化するものであり、つぎの要件を備 えていることが望ましい。
①何か、製品のベネフィットを示唆するものであること。
②製品の品質を示唆していること。
③発音しやすく、わかりやすく、覚えやすいこと。
④特徴的なこと。


(4)複数(マルチ)ブランドについての決定
複数ブランド戦略とは、1つの企業が複数の競争するブランドを開発することをいう。複数ブランド戦略は、小売業の陳列スペースの確保、ブランドロイヤルティの低下による損失の防止、自社の活性化、市場訴求力の強化という利点がある一方、自社内の商品どうしが同じ分野で競争をするため、シェアの奪い合い現象(カニバリゼーション、共食い現象)が起き、非効率的になるという欠点も指摘される。

カニバリゼーションを回避するには、他社商品だけでなく、自社商品も含め た市場ポジショニングの把握が必要である。これには、既存商品も含めた自社の製品戦略を明確化し、新製品の開発コンセプトの設定が重要となる。


>2. ブランド資産(brand equity)
製品差別化戦略としてのブランド戦略の目標は、そのブランドがもつ資産価値を高めていくことにある。近年ではこの領域に関心が集まっている。
ブランド資産(ブランド·エクイティ) とは「確立されたブランドのもつカによってもたらされる資産価値であり、それは企業の収益向上の源泉となりうるものである」と説明できる(アーカー『ブランド優位の戦略』ダイヤモンド社)。

アーカーはブランドに対する顧客の態度を次の5段階に区分した。
①特に価格を理由に、ブランドを変える。ブランドロイヤルティはない。
②満足している。ブランドを変える必要はない。
③満足しており、ブランドを変えるとコストがかかる。
④ブランドを高く評価し、まるで友達のように思っている。
⑤ブランドを熱愛している。

ブランド·エクイティはどれだけの顧客が③、④、あるいは⑤に属するかに関わっている。

(1)ブランドエクイティを構成する要素
アーカーは、ブランド·エクイティの構成要素として次の5つをあげている。
① ブランドロイヤルティ
②ブランドの知名度
③ブランドに対する質的評価
④ブランドイメージやブランドからの連想
⑤商標登録の有無やチャネルへの浸透度などのその他の事項

また、ブランド エクイティを高めることにより、次のようなことに関して企業の収益性向上に貢献することができる。
①価格競争を回避して、高価格で販売することができる。
②他社ブランドに対する競争上の優位性が確保される。
③ブランド使用権を貸与し高いライセンス料を獲得できる。
④企業の株価水準に対して好影響を与える。


>3. ブランド戦略の4類型
図表 11.8 4つのブランド戦略

         既存製品カテゴリー    新規製品カテゴリー
既存ブランド   ライン拡張        ブランド拡張
新規ブランド  マルチ(複数)ブランド   新ブランド

新製品にブランドを設定する場合、図表に示すようなブランドの4つの戦略の考え方が一般に行われている。
ブランド名が既存のものか、あるいは新規のものなのか、またブランドを付す製品カテゴリーが既存のものなのか、新規なのかによって、4つの次元に区分することができる。


①ライン拡張
既存の製品カテゴリー内で同じブランド名のもとに、新しい味、形、色 分、パッケージの大きさなどを導入することである。 たとえば、同じヨーグルトのブランドで、新しい味のものを出すような場合である。新製品導入のほとんどの場合、ライン拡張という形で行われる。

②ブランド拡張(エクステンション)
すでに成功したブランド名を他の製品やサービスにつけるような場合であ る。
たとえば、ライオンの「植物物語」というブランドがある。当初、1992年に発売になった植物油脂原料の石けんに対してこのブランドが用いられた。この製品のヒットにより、現在では、シャンプー、リンスなど、植物原料を用いた 一連の製品に対してこのブランドが使用されている。
すでに評判のよいブランド名を使えば、広告支出費用をあまり使わずにすむ といった利点がある。しかし、他方では、ブランド拡張が失敗した場合、同じ ブランド名をもつ他の製品に対しても消費者が悪印象を抱くリスクが存在す る。

③マルチブランド
同じ製品カテゴリーの製品に対して、2つ以上の異なったブランドを用いる ことをマルチ(複数)ブランドという。既述したとおりの内容である。

④新ブランド
新しい製品カテゴリーに参入する場合、新しいブランドを開発することであ る。


>4. パッケージング(包装)戦略
パッケージング(包装) とは、製品の容器や包装をデザインし作り出す活動である。 パッケージング(包装)には①製品の容器(1次パッケージ)、②製品が使われるときには廃棄されている外装(2次パッケージ)、③製品を保管、識別 、輸送するために必要な輸送梱包(輸送用パッケージ)がある。日本工業規格によると、製品の 容器(1次パッケージ)は個装とも呼ばれ、内容物の保護を主たる目的としているが、各種の情報やデザインなどを付加することによって商品価値を高めるというマーケティング上の機能も有している。また、目的別による分類
では、商業包装と物流目的のための工業包装とに分けられる。

近年、バッ パッケージング(包装)が大きくクローズアップされ、デザインに関する問題が多くとりだされている。セルフサービスタイプの店舗の拡大や、優れたデザインのパッケージを求める豊かな消費者の存在などから製品差別化の手段としてパッケージング戦略は重要となってきている。また、環境問題と関連して容器包装リサイクル法やゴミ問題(過剰包装)などの関連から考えても、パッケージング戦略は企業にとって重要な意思決定となってきている。


☆7.サービスとサービスマーケティング戦略

>1.経済のサービス化

経済のサービス化がいわれるようになってかなりの時がたつ。この言葉は、有形財よりも無形財に分類されるサービスへの需要が増加していることを示すものである。経済のサービス化が進展した理由として、大きく分けると2つの原因が ある。


(1)企業内サービスの外製化
本来企業内で行われるサービスや業務が、企業外の機関によって行われるよ うになった。

①市場ニーズの変化や技術革新の速さに対応するための専門性が必要とされ てきたことから、企業内では対応しきれなくなった。

②激しい環境変化に対応するために、柔軟な組織づくりが求め られている。 たとえば、コンピュータのソフト開発では一時的に大量の人手を導入し なけ ればならないが、それが終了すると次の開発まで人員はさほど必,要でなくなってしまう。このように、 一時的に集中するサービス業務を社内で処理することは得策であるとはいいがたい。

③労務管理上、サービス業務を企業内で処理しないほうが、コストをかけずに済む場合がある。たとえばビルの清掃、警備、運送関連業務である。


(2)消費のサービス化の進展
「経済のサービス化」は、消費におけるサービス業への依存が増加してきた ために指摘された言葉であるが、それは「ゆとり」がうまれたことに原因があ ると考えられている。すなわち、2つの「ゆとり」である。

①家計面でのゆとり
②時間的なゆとり


>2.サービスの定義
AMA (American Marketing Assosiation)の定義によると、サービスとは「販売のために提供される、あるいはモノ的商品の販売に関連して提供される諸活動、 便益、あるいは満足である」としている。

またP. コトラーは「基本的に無形かつ所有の対象とならないものを提供する活動である。物理的な製品と結びつけて提供される場合もある」としている(『マ ーケティング·マネジメント第7版』コトラー、プレジデント社、433ペー ジ)。

>3.サービスの特性
サービスの特性は、有形物とは異なっており、サービス特有の性格がある。

①無形性
 サービスの購入者は、自分が購入するサービスを事前に、見たり、味わったり、触れたり、聞いたり、香りをかいだりすることができない。

②生産と消費の同時性
モノは生産と消費が時間的に分離しているので、その結果、在庫の保有、 流通の存在、地域的輸 地域的輸送などが考えられるが、サービスは生産と消費の不可分性をもっている。サービスにおける生産と消費は同時的でなければならな い,これを生産と消費の同時性という。

③生産への消費者の参加
サービスは、消費者が存在しなければ生産することができない。しかし、 有形物の場合は保管が可能なので、消費者が存在しなくても商品を提供することができる。

④需要と供給の調整が難しい
有形財は在庫が可能であり、需要に対して供給を調整することができる。
しかし、サービスには在庫が存在しないために、需要と供給を調整するためには、需要で調整を行わねばならなくなる。

⑤一過性
有形財は一度購入すると繰り返し何回も、その有形物が存在するかぎり使 は「販 活動 用することができる。しかし、無形財は消費した後に残ることはなく、有形 財のように何回も使用することはできない。つまり一過性のものである。 供する

⑥規格化·標準化が困難
有形財は、生産過程や流通過程における品質管理を厳正に実施しうるため、 高度の規格性をもっている。これに対して人間によって提供されるサービス は規格化・標準化が困難である。

⑦所有権が移転しない
有形財の場合は所有権が移転されるが、サービスの場合は所有権の移転ではなく、使用権のみが移転される。



>4.サービス マーケティング
(1)サービス、マーケティングの三位一体構造

①エクスターナル マーケティング
これは顧客にサービスを提供する通常の業務を指す。このマーケティング の中心的な対象はマーケティングマネジメント戦略の4 Pであり、すなわち 製品(サービス)、価格、販売促進、チャネル(場所)である。

② インターナル、マーケティング
サービスの特性を考慮すると、一過性、生産と消費の同時性、人的接触性 があげられるが、いずれも「現場」が顧客に接触していることから、「接客 要員-コンタクト·パーソナル(C. P)」を無視することはできない。 したがって、インターナル マーケティングとは顧客満足を提供するため、 サービス支援担当者と顧客接触担当者が一体となって働くように訓練し、意 欲を持たせる業務である。

③インタラクティブ·マーケティング
インタラクティブ·マーケティングとは顧客接触を行う従業員の技術を指 サービスの品質は提供者に左右される傾向がある。専門的サービスほど その傾向が強い。なぜなら、顧客はサービスの品質を技術的品質のみならず 機能的品質によっても判断するからである。

図表11-9 サービス業のマーケティングの3タイプ

企業
インターナル· マーケティング
従業員
インタラクティブ·マーケティング
顧客
エクスターナル· マーケティング  
企業
コトラー『マーケティンゲマネジメント 第7版』プレジデント社、1996年、437P

さらに、技術的品質の判断を基準にして、製品·サービスはいくつかの種 類に分けられる。
1)購入前から判断が可能な探索クオリティの高い製品·サービス
2)購入後に判断が可能な経験クオリティの高い製品·サービス
3)消費後でもクオリティの判断が難しい信頼クオリティの高い製品 サー ビス

サービスは一般に経験クオリティや信頼クオリティの高いものであり、消 費者は購入に際して高い危険性を感じている。従って、消費者は口コミを信 頼する傾向があると同時に、そのクオリティの判断基準として、価格や従業 員を重視する傾向がある。


☆8. マーチャンダイジング
マーチャンダイジング(Merchandising) とは、一般に商品化計画と訳される用 語である。商品化計画とは適正な商品を、適正な場所で、適正な値段で、適正な時 を指 期に、適正な数量だけ供給するための計画である。つまり、科学的な手法をもとに ほど した売れる製品づくり、または適切な品揃え計画のことである。前者はメーカーの らず 立場、後者は小売業など流通業者の立場に立ったものであるが、マーチャンダイジ ングは一般には後者を意味する場合が多い。

>1. 新製品開発の流れ
企業は新製品開発に優れていなければならない。現代の競争条件のもとで、既品のみに依存しているのは非常に危険である。人のニーズは限りなく存在するものであり、それに合わせた新製品を提供していかなければならないのである。この視点から、企業には新製品の開発プロセスが必要になってくる。

企業は新製品開発の重要性を十分認識しているにも関わらず、新製品の失敗が多いのも事実である。どういう状態を失敗と定義するかによって結果も異なるが、 新製品の20%から80%が失敗であるという数字も出てきている。またS、ヘスの研究によれば、新製品開発における失敗は、消費財で40%、生産財で20%、サービスで18%であった。つまり驚くべき高い数字なのである。

このような誤りを防ぐためにも、企業は新製品開発プロセスをコントロールする組織体制 、整備を推進し、その体制が整うとともに、コトラーに従えば企業は次のようなステップにもとづいて、新製品開発戦略を行っていく必要がある。

 図表11・10 新製品開発の流れ
アイデアの創出→ ティデアのスクリ ーニング→コンセプトの開発とテスト → マーケティング戦略開発 →経済性分析→製品化 →市場テスト →市場導入
(出典:コトラー、アームストロング『マーケティング原理』ダイヤモンド社P371)

①アイデアの創出
この段階においては消費者のことをよく観察してできる限り多くの新製品のアイデアを出すことである。

②良いアイデアのスクリーニング
前段階で出されたアイデアを絞りこんでいく過程である。ここで注意しな ければならないことは、企業に適したよいアイデアを採用し、悪いアイデア を捨てることである。

③コンセプトの開発とテスト
この段階では、新製品にどのようなコンセプトを持たせるのかを決定していかなければならない。このコンセプトに対する標的市場となる消費者の反応をテストする必要がある。

④マーケティング戦略開発
コンセプトが採用された後、マーケティングの戦略を考えていかなければ ならない。戦略的マーケティングの視点に立って4P、競争企業、社会的問題を考慮し、最良の戦略を策定するのである。

⑤経済性分析
満足できる製品コンセプトと戦略ができあがった後、冷静な経済分析が行 われる。これは売上高、コスト、利益の推定であり、これを企業の目標と照 らし合わせる必要がある。

⑥製品化
この段階では、研究開発部門や技術部門において物理的な製品化を行う。 ここでは現実的に製品を生産できるかどうかを見ていく。この時に消費者テストも大事であり、製品の性能や消費者の評価をしていかなければならない。

⑦市場テスト
消費者に向けて、どれくらいの市場が存在するのかを実際に販売してみるのがこの段階である。ここでは消費者集団を限定し、リスクを減らしていく。 再購買状況、使用状況を注意深く見てゆくことが重要である。

⑧市場導入
市場テストを終えた後、市場に導入するか否かを判断する。


>2 商業化(市場化)計画
新製品の事業化を行うには、次の4つの決定が必要である。

(1)いつ(タイミング)
新製品の事業化においては時期の問題が重要である。企業が新製品をほとん ど完成させていたとして、仮に他社も完成間近だとの情報を得たとき、企業に は3つの選択がある。
①最初に市場参入する
②同時に市場参入する
③遅れて市場参入する

(2)どこで(地域戦略)
新製品を特定の一地方で発売するか、 単一地域で発売するか、複数地域で発売するか、または全国市場、あるいは海外市場で発売するべきかという決定である。最初から全国市場で一斉に発売する自信と資金、能力をもっている企業は少なく、多くは時間をかけた順次進出計画でのぞむことになる。

(3)誰に(ターゲット市場見込顧客)
順次進出する市場の中では最も見込みの大きい顧客グループを対象に流通とプロモーションを考えねばならない。

(4)いかにして(導入マーケティング戦略)
最後のステップは、新製品を各市場へ次々と導入していくマーケティング戦 略をつくることである。


>3、新製品の採用者区分
新製品が消費者の間にどのように普及していくかについて、ロジャースは農村社会学の研究をもとに、次のような採用者モデルの理論をまとめた。
人々の間には新製品を採用する心理的容易さに関して大きな個人差がある。
「ある個人の、その社会システムの他のメンバーに比べて、新アイデアを採用 する早さの程度」によって、5つのグループに区分することができる。

①革新者
新しいアイデアや情報を他の人々に先立って最初に採用する人々である。革新者の主要な価値観は「冒険心」である。

②前期少数採用者
彼らの主要な価値観は「尊敬」である。彼らはそのコミ ュニティで、オピニオンリーダーとしての地位にあり、一般に他 のメンバーのモデルとなりうる。

③前期多数採用者
社会集団において、そのメンバーが採用する平均的な時 期よりも以前に新しいアイデアを採用する人々である。彼らの主要な価値観は「慎重さ」である。

④後期多数採用者
彼らは大多数の人々がその効用を認めたと思われるまで、イノベーションを採用しようとはしない。彼らの主要な価値観は「懐疑心」である。

⑤採用延滞者
ノベーションを最後に採用する人々である。彼らの主要な価値観は「伝統」である。


図表11.11 新製品の採用者区分

革新者:2.5%
新規採用者:13.5%
前期追従者(前期多数採用者)34%
後期追従者(後期多数採用者)34%
延滞者:16%

採用者のカテゴリー別分布