第5章経営組織の形態と構造

☆1. 組織の構成原理

>1.  組織原則

管理過程論の創始者ファヨール(第6章で説明)は、企業における管理活動にっ いて研究し、「組織原則」と呼ばれる14の法則を見いだした。 ここでは、そのうちの主なものを取り上げる。

(1)専門化の原則
それぞれの組織構成員が分担する職務は、技術、知識、経験などで類似した 仕事によって構成されなければならないという原則である。

(2)権限・責任一致の原則
権限は、職務を遂行する為に組織構成員に認められた力であり、自ら職務を遂行し、あるいは他人に遂行させることのできる権利である。責任とは、職務に課せられた成果をあげる義務を意味する。したがって、権限と責任は職務を媒介して対応関係にあって、職務担当者は職務を遂行するのに必要な権限が与 えられるとともに、同程度の責任を負うことになる。

(3)統制範囲の原則(スパン・オブ・コントロール)
単位部門の職位の数、つまり部下の人数に関する原則で、一人の管理職が直接的に管理しうる部下の人数にはおのずと限界があるためこれを超えて部下を もつと管理効率が低下するということである。 部門の規模を規定する要因は次のものが挙げられる。

①管理者の時間的,能力的限界
管理者が担当する職務内容によって制約されるものであり、これを超えた 規模の部門を編成すると監督が行き届かなくなり、管理効率の 低下を招く。

②仕事の標準化
仕事それ自体、その遂行上の技能およびその結果のいずれかの標準が進めば進むほど、管理者は部下の数を増やし 部門の規模は大きくなる。

③仕事の相互依存性
管理者の助言、指導および組織構成員同士のコミュニケーションを必要とする仕事ほど、部門の規模を小さくしなければならない。

(4)命令統一性の原則(命令一元化の原則)
経営組織の上下関係において、命令統一の一貫性を維持するために必要な原則である。したがって、単位部門を積み重ねて組織の階層を形成する段階に適用される原則で、職位の上下関係において組織構成員は特定の一人の上司だけから命令を受けるようにしなければならない。この原則が遵守される組織で全ての組織構成員は一つの命令系統のもとに統合され、統一的行動を維持することができる。


☆2. 組織構造論

>1.ライン部門とスタッフ部門

(1)ライン部門
企業には、その業務活動を欠いた場合には経営活動が成り立たなくなるよう な基幹的業務がある。つまりその活動の成果が直接的に経営活動の成否、企業損益に反映する業務が存在する。これをライン業務といい、たとえば製造業ならば調達、製造、販売活動という直接的執行活動である。

活動の規模がある程度に成長すれば、このライン業務を仕事の流れや過程に即して部門化することが必要となる。そして、それぞれに部門長が置かれ、管理の機能が上方へ分化し(階層化し) 、調達、製造、販売の仕事の流れを統括、管理する職能が確立して、ライン部門ができあがる。

(2)スタッフ部門
①専門スタッフ(サービス·スタッフ)部門
組織活動は、人、物、金、技術という要素を結合して営まれているが、専門スタッフ部門(サービス・スタッフ部門)というのは、これらの要素に即し て仕事を専門化し、部門化するというものである。たとえば人事、経理、技 術、総務などが部門編成の対象となる。

もともと、これらの仕事は各ライン部門の中に含まれ、誰かが担乳ていたはずであるが、仕事量が一定の規模に達したところで各ライン部門から分離独立させ、1つの部門とするという形で編成される。

この部門は、ライン部門に専門的助言、助力を提供することによって、ラ イン業務を促進、援助する。その意味で、経営活動の目的達成に間接的に寄与する間接的部門である。


② 管理スタッフ(ゼネラル·スタッフ)部門
さらに、最高経営者(トップ・マネジメント)の計画、組織化、調整、動機づけ、統制といった全般的・総合的管理活動や意思決定を、それぞれの場面に即して補佐、助言するためのスタッフ部門の編成も行われる。このよう ーにして形成される部門は、管理スタッフ部門ないしはゼネラル・スタッフ部門と呼ばれる。たえば企画部、調査部、社長室などである。

図表5-1 組織構造の分化プロセス

管理職能
作業機能



管理職能
 調達
 製造
 販売
ライン部門の分化



管理職能
 調達
 製造
 販売
  人事
  経理
  技術
専門スタッフ部門の分化



管理スタッフ部門
企画
調査
社長室

 管理職能
  調達
  製造
  販売
   人事
   経理
   技術


>2. 組織構造の基本類型
(1)ライン組織(直系組織、軍隊組織)
すべての職位が、トップから第一線の従業員の段階に至るまで、単一の指揮命令系統で貫かれた組織形態である。各職位は、ただ1人の長を持ち、その長からのみ命令を受ける。ここでは命令一元化の原則が貫かれる。

<長所>
①命令系統がきわめて明確で、組織形態として単純明解である。
②秩序や規律の維持が保たれやすい。
③単純な作業の管理に向いている。

<短所>
①権限が上位者に集中するので、仕事が複雑になれば上位者は過大な負担 を負うことになり、適切な管理が困難となる。
②下位者は権限が小さいため、仕事への熱意が持てなくなり、自律性や創 意を生かしにくい。
③縦割り組織であるため、横への連携が難しい。
④統制の幅が狭くなるので階層の数が増え、コミュニケーションに時間を要するようになる。

図表5-2 <ライン組織>
トーナメントの形
 

(2)ファンクショナル組織
専門職能別に分けられた上位者が、専らそれぞれの担当する職能に関してのみ部下を指揮命令する権限を有する組織形態である。ここでは専門化の原則 が貫かれている。部下の立場からすれば、複数の専門的分野の職能を担当する上 司から、指揮を受けて作業を遂行するという形である。テイラーの職能別職能制に端を発している。

<長所>
①専門化の原則が生かされ、それぞれの管理者が自己の得意とする分野で管理活動を行うことができ、部下の仕事全般を指揮監督する必要がないから、負担が軽減され、統制の幅が広くなる。
②それぞれの職能が専門化するので、管理者の養成、訓練確保が容易であ る。

<短所>
①下位者は複数の上位者から同時的に命令を受けることになり、命令の一元性が保ちにくくなり、混乱が生じる危険性がある。
②専門的知識をもつ同階層の管理者が、それぞれ専門的意見を強く主張す るため、職能間の調整が難しい。

図表5.3 <ファンクショナル組織>
専門的知識をもつ同階層


(3)ライン・アンド・スタッフ組織(直系参謀組織)
ライン組織にスタッフを付け加えた組織形態である。執行職能を遂行するラインに、全般的あるいは専門的知識をもとにして助言、あるいは援助を行うス タッフを付け加えたのがこのライン・アンド・スタッフ組織である。

<長所>
命令の統一性を確保しながら、専門家の助言を得て、能率の向上を図ること 所 ができる(命令一元化の原則と専門化の原則の統合)

<短所>
スタッフが重用されすぎると、スタッフ本来の役割である助言的立場を超えて命令権を行使するようになり、経営活動の遂行に混乱をきたすことになる
 図表5-4 <ライン・アンド・スタッフ組織>


>3. 職能別組織と事業部制組織
(1)自己充足的組織単位
仕事を行うのに必要な職能がすべてそろった1つのグループを、自己充足的組織単位とよぶ。
企業には、複数の自己充足的組織単位からなるもの(事業部制組織)もあれば、 個別の自己充足的な単位が全く存在せず、企業全体が1つの自己充足単位になっているもの(職能別組織)もある。

(2)職能別組織(機能別組織)
職能別組織とは、企業の主要な職能ごとに部を設け、企業全体で1つの大き な自己充足単位になっている組織である。製造部門、販売部門というように能分化によって部門化し、それぞれに権限が与えられてはいるが、各部門の活動は他の部門に大きく依存しており、その結果、トップ・マネジメントによる調整が必要となることが多く、集権的色彩が強い組織である。したがって 集 権的職能別組織ともいわれる。

<長所>
①専門化による知識や経験の蓄積が容易である。
②企業全体を複数の自己充足単位に分けるのと比べれば、それぞれの職能部門の規模が大きいので、規模の経済を実現しやすい

<短所>
①過度の専門化や職務志向により、全体的志向が欠如し、セクソョナリス ムが生じやすい
②その一方で、各部門の相互依存関係が強く、業績評価がしにくい。
③部門間の調整コストが高くなると同時にトップに権限が集中し、また、負担も大きくなる。
④集権化が進み、組織専門化、標準化、あるいは形式化が進展すると、組織はあたかも機械のような性格を備えるようになる。

 [適合的な環境] 経営環境が安定的で変化の少ない状況に適する。
 [適合的な規模] 小規模ないし中規模で、単一事業の企業に適する。

図表5-5 <職能別組織>
社長
購買部  製造部  販売部  研究開発部 人事部 経理部


(3)事業部制組織
 事業部制組織とは、製品別あるいは地域別、顧客別を基準として企業の経営活動を複数の自己充足単位(事業部)に分化させ、各事業部が、独立した1つの企業であるかのように運営される組織である。管理や製造、販売などの機能をもつ自立的な複数の事業部が連合して会社組織を形成するので、連邦制組織とも呼ばれる。

<長所>
①各事業の業務的な意思決定からトップ·マネジメントが解放される。
②各事業の目的志向が強化され、分権化により自立性、機動性が強化される。
③各事業部の責任権限が明確となり、評価やコントロールが容易である。
④各事業部長は、当該事業全体の意思決定にかかわるので経営者としての能 力の向上が期待でき、後継者の育成が容易となる。

<短所>
①各事業部ごとに人材、設備が配置されるので、資源の二重投資が生じる
②各事業部が自己の利益のみを追求し、セクショナリズムを生じやすく、部 門間にまたがるコミュニケーションや人事異動が行われにくい。
③各事業部の業績が利益を中心にはっきりした形で出される結果、各事業部はその成果に追われ、企業全体の方向を考慮することなく、近視眼的行動に走る危険性がある。

[適合的な規模] 主に大企業
[適合的な環境] 変化の多い環境 また、


図表5-6 事業部制組織

社長

→本社スタッフ

A事業部
管理部門
研究開発部門
販売部門
製造部門

B事業部
管理部門
研究開発部門
販売部門
製造部門

C事業部
管理部門
研究開発部門
販売部門
製造部門

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☆3.経営組織の活性化
特定の目的を達成するための、最も合理的な組織を編成しようとする努力は、ややもすれば経営組織を官僚制組織に近づけることになってしまう。

官僚制組織とは、社会学者のマックス・ウェーバーが、法的支配が是認されいる近代社会における、最も合理的な行政組織として、理念形を描き出したものである。ところが、官僚制組織においては、本来は手段であるはずの規則や手きの順守が自己目的化されてしまい、かえって非効率や非人間性が問題とされて しまうことの方が多くなっている(これを「官僚制の逆機能」という)。

このような官僚制組織の問題点は、巨大化された企業組織においても存在している。ところが、企業をとりまく環境の変化は激しくかつ急速である。官僚制組織ではなく、むしろ生き生きとした活力のある、弾力性に富んだ組織こそ、生き 残れる企業の基本条件となる。
そこで、経営組織の活性化,動態化,柔軟化のためにとられるのが次のような 方法である。

>1. 活性化·動態化の方法

(1)プロジェクト・チーム
プロジェクト·チームとは、特定のプロジェクト(新製品や新事業開発などの課題)に取り組むために、一時的に既存の各部門から所要の知識や経験を持つ人々を集めて、既存の本体である構造とは別に、期間を限定して編成される組織のことである。問題の発生に応じて編成され、プロジェクトが完了すると解散してメンバーは元の部門に戻る。この組織は従来の縦割り型の組織の枠を超えた横断的組織としての性格をもつ。

(2) タスクフォース
タスクフォースは、元来は特別機動部隊というアメリカの軍事用語である。
特定の計画遂行のために各部門から専門家を集めて臨時に編成される組織のことである。特定の課題を一時的に行うという点では、プロジェクト・チームに似ているが、プロジェクト・チームの場合は比較的テーマが大きく、長期にわたって計画段階から具体的な戦略展開に及ぶことが多いのに対し、タスクフォースの場合は、短期間であらかじめ定められている業務の執行に重点がある。

(3)課制廃止
部門内の課という仕事の区分単位を、部分的あるいは全面的に廃止して、部 門内プロジェクトごとにそのつどグループを作るものである。これによって、 部門内における仕事の壁を取り払い、状況に応じて流動的に人材の活用を図る とともに、無駄な人員の重複を避け、能力中心の視点に立って少数精鋭の体制 を取ることができる。横断的組織の一形態である。

(4)マトリックス組織(後述)

(5)戦略(的)事業単位(SBU=Strategic Business Unit)
戦略(的)事業単位(SBU)とは、PPM理論で対象とされる事業を管理する ための組織である。

既存の事業部制とは別に設けるもので、戦略を策定する際の組織上の単位である。明確に定義できる市場を持ち、それ自身の独立した競合者があり、1人の責任者によって管理される戦略策定と評価のための単位であり、独自の戦略計画に従って編成される事業部横断的な組織単位である。

(6)社内ベンチャー
ベンチャー精神に基づき、既存の主力事業とはかなり異質な新事業・新製品を開発するために、企業の内部に独立した組織を設け、それをまるで小さな独立企業のように運営させるというものである。既存の組織の枠内では実力を発揮できない人材を十分に活用できるだけでなく、その積極的な姿勢や企画の成功によって、既存の組織を刺激し、変革を促すことができる。

(7)分社化
企業の大規模化による組織の硬直化に対処する手段として、企業を事業単位あるいは製品、顧客、地域などに分けて独立会社とすること。グループ全体の活性化、環境変化への対応、責任所在の明確化、機動力の発揮というメリットがある反面、管理部門の重複、人事交流の困難性、グループ全体の一体感の欠 如というデメリットも生じる。

(8)社内カンパニー制(後述)

(9)小集団活動
企業の目的をより効果的に達成しようとして、少数の人々によって構成さる集団による活動のことであり、主として作業現場の人々の改善のアイデア集団で討議し、活用するものである。 QCサークル活動やZD運動(後述)は わが国における小集団活動の代表的なものである。これによる経営への参加意識の高揚が従業員を動機づけ、組織を活性化することをねらいとしている。

(10)ネットワーク組織
ニューメディアやソフトウェア、人的サービス網が様々な形で結びついた情報通信ネットワークを背景に、情報・技術の交流、創造開発を目的とする緩やかな提携関係によって結ばれる組織形態のことをいう。
異業種交流や、産地と大型流通業者、運輸業者との提携によってネットワー ク化された産地直送のシステム化などは、ネットワーク組織の典型である。

(11)ナレッジ・マネジメント
知識管理と訳され、知的資産を最大限に活用する手法のことである。情報技術(IT)を駆使することにより、社員が業務上知り得た専門知識、情報・ノウハウ等のナレッジを企業が一元的に管理し社内のネットワークで社員同士の情報交換により、情報の共有化を図る経営手法である。社内外の問題解決、技術 ・用途、商品開発等に結びつけ、企業組織の競争力や創造力の源泉を確立することを目的としている。


>2. マトリックス組織
マトリックス組織とは、言葉のとおり、ヨコ軸とタテ軸の軸を井桁状に組み合わせて編成する組織である。2つの軸には、通常、一方の軸に職能別基準を、他方の軸に製品や事業部等のプロジェクト基準を用いる。これによって縦割りの職能別組織による定例的な業務の効率的遂行と、横割りのプロジェクト組織による新しい課題の解決を同時に達成しようというものである。

マトリックス組織の特徴として、ツーボス・マネジャー(2人ボス制) の存在がある。伝統的組織の特徴である「命令統一の原則」あるいは「ワンマン・ツーポス(one man one boss)」を放棄して、「ワンマン・ツーボス(one man two boss) 」 あるいは「多元的命令系統」に切り替えた組織を意味する。
ツーポス・マネジャーといわれるこのような人たちは、自分の属する職能部門の長に対して特定の職能遂行の責任を負うと同時に、他方において、特定プロジェクトの遂行についてプロジェクト・マネジャーにも責任を負うのである。

 図表5-7 マトリックス組織
社長  A事業部長 B事業部長 C事業部長
購買部長
製造部長
販売部長


<導入の理由>
①企業をとりまく環境の複雑化に対処するための専門的知識・技術が必要になり、その結果、さまざまな活動を職能別に統合する必要性が増した。 一方で、多角化や地理的分散化の進行による製品別や地域別の部門化の要請も同時に強まった。こうした複数の基準による部門化を可能にするめ。

②不確実性の高い環境下においては、職能的にも、製品や地域の面でも、情報処理能力を向上させたマトリックス組織が必要であるため。

③社内の有機的連絡や、多面的な連絡の促進といった調整と統合の面での効 果を期待できるため。


<問題点>
①多系統の命令に部下が慣れず、混乱する可能性がある。
②権限と責任が重複しており、各人が自分を有利にするための権力闘争が避けられない。
③責任の所在があいまいになり、結局はだれも責任を負わないという無政府状態になるおそれがある。


>3. 社内カンパニー制
企業規模が大きくなり組織が複雑になってくると、環境変化が激しい い時には企 時に 業グループ全体で、経営資源を有効活用するための意思決定が遅くなる傾向がある。また、事業部が多くなった場合、担当役員が取締役会で担一部署の利益を先する発言が多くなって意思決定が遅くなることになる。そこで、経営資源の配分を効率化し、意思決定の迅速化、創造性の発揮を促進し、量的拡大の経営質的向上の経営への転換を促す分権組織が必要になってくる。

社内カンパニー制(カンパニー制ともいう) とは、事業部制に市場原理を導入し、独立会社により近づけた形態の「疑似会社制」である。事業部制と比べれば独立性が高いものの、バーチャル分社であるため、次のような課題がある。

①各事業部長には上司がおり、その意向に沿った経営をせざるを得ない。
②重要な財務職能の一つである資金調達は本社の財務部門の業務であり、各事業部長は悩む必要性はなく、トップとしての厳しい財務マインドを醸成す ることに欠ける。

図表5.8 社内カンパニー制

取締役会
社長

→管理部門

Aカンパニー
Bカンパニー
Cカンパニー


>4. 持ち株会社
いくつかの企業を支配するために、それらの 企業の株式を保有する会社をいう。

2つのタイプがあり、事業持ち株会社は持ち株会社自体も事業を行い、純粋持ち株会社は、自らは事業を行わないタイプの持株会社である。

事業部制や社内カンパニー制は擬似分社であるのに対して 持ち株会社の場合は完全な分社化であり、持ち株会社との間も各分社間でも、独立した会社の関係になる。持ち株会社と子会社との関係は、株主あるいは出資者と会社との関係になり、子会社にはより高度の自主性が与えられる。

持ち株会社のメリットは、次の通りである
①傘下企業は、迅速な意思決定、独 自性をもった機能的な活動ができる。
②傘下企業別に事業の内容や収益性などに適した人事・給与体系が導入できる。
③グループとしての経営資源利用の最適化を図る方向で、戦略的に不適合な部門 を切り捨てるためスピン・オフや売却・撤退を行ったり、逆に特定の事業をM&Aの対象とし、子会社として傘下に納めることが容易になる。


☆4. 組織間関係
組織間関係とは、組織をとりまく外部環境、とりわけ他の組織との関連で分析するために発展してきた理論である。ここでは、主として、互いに自立的であろうとしながら、しかも直接相互に依存しあっているような関係を取り扱っている。

>1.  組織間関係の類型
ここでは、基本的な企業間関係を中心にみていく。なお、すでに述べた「ネッ トワーク組織」も組織間関係の類型の一つである。

(1) カルテル
企業連合ともいう。同一産業部門において、独占を目的とする企業間の協定、 または協定にもとづく(企業間の)横断的結合である。
販売価格の最低限を協定する価格カルテル、生産量または販売量の最高限を協定する生産制限カルテルなどの種類があるが、独占禁止法によって原則的に禁止されている。

(2) トラスト
企業合同ともいう。カルテルよりも高度な企業集中形態である。トラストは、 市場の利益を独占するために、同種の企業が資本を統合して一つの企業になるこ とである。

(3) コンツェルン
企業連携ともいう。一企業が多種の諸企業に出資し、実質的に支配することによってできる企業の統一体である。

(4) 系列
系列とは、資本・経営者・生産・販売などの企業間の結合関係をさすが、特に日本の企業間のあるいは企業グループにみられる長期的継続的取引関係を「系列」 と呼んでいる。

(5) 戦略的連携(ストラテジック・アライアンス)
戦略的連携とは、企業の独立性を維持したまま、企業間に緩やかで、柔軟な結 ぴつきをつくることをいう。ライセンス供与、技術提携、共同開発、共同生産、合弁企業の設立、生産委託、販売委託、資本参加など、形態は様々であるが、こ のような企業間の結びつき、協調関係(特に戦略的な意図をもっておこなわれる もの)を総称して、戦略的連携(または戦略的提携) と呼んでいる。


>2. 組織間関係の分析モデル
組織間関係にはさまざまな類型があるが、それではどうして、このような類型が選択されるのであろうか。これを説明する理論として2つの分析モデルがある。

(1) 取引コスト・パースペクティブ(取引コスト・アプローチ)
 この考え方では、次の2つを前提とする。
①経済活動は取引とみることができる。
②取引を調整するためにどのような組織間関係をとるか(市場取引か、ある いは階層組織内の取引か)は、どれを選択すれば取引コストを最も低くできるかによって決まる。

このモデルの前提となる考え方は、経済主体の「限られた合理性」(情報処理 能力の限界)と、自らの満足を高めるために、相手の立場を考えず状況に応じて利己的に振る舞おうとする「機会主義的行動である。
一般に人は自ら有利にな るよう取引を導こうとする「機会主義」をもっており、その結果、自己に不利益となる情報を相手に伝えなかったり、ときには嘘をつくことすらある。
こうした機 会主義は、取引に駆け引き的行動をもたらし、取引コストを高める可能性がある。

取引コスト・パースペクティブでは、商取引が市場で行われたときと、内部組織(企業や企業群)で行われたときとで、どちらの方がコストが安いかを比較する。 選択肢は取引を内部組織化するか、あるいは市場で取引するかの二者択一である。

ウィリアムソンによれば、アメリカの自動車メーカーと部品業者との関係に、 この取引コスト・パースペクティブの考え方を適用できる。自動車メーカーは部品業者に特注部品を発注する関係にあり、部品業者の駆け引き的行動は完成品製造に支障をきたすことになりかねず、いきおい取引コストは高くついてしまう。
そこで、アメリカの自動車メーカーは部品業者の垂直的統合を進め、結果として 部品の内製率を高めることになったというのである。

(2) 資源依存パースペクティブ
資源依存パースペクティブは、企業間の資源に対する依存度とパワーに注目した考え方である。組織は、外部環境から諸資源を獲得し、それらを財ないしサー ビスの形に変換して外部環境に提供することによって、存続が保障される。
こ のため、諸資源を提供してくれる他の諸組織に依存しなければその存在が危ぶま れる。ある企業が他社に資源を依存する場合、他社はその企業に対してパワーを持つと考える。仮に資源が稀少でかつそれを提供できる組織の数が少なければ、提供を受けている組織の資源依存度は高まり、パワー格差からその組織の自立性 は脆弱になってしまう。
そこで、資源を依存している企業は、資源に依存しつつ、 他社のパワーからの脱却を目指そうとする。外部の資源に依存しながらも組織としての自立性をいかに確保するかが中心課題となる。