第4章 競争戦略

☆1. 業界の競争構造分析
競争戦略とは、事業戦略とも呼ばれる。企業が活動している個別の事業分野において、他社との相対的な位置関係を自社に有利にするための戦略であり、事業の将来の展望などを描く場合にたてられる戦略である。
つまり、ある市場でライバルといかに競争するかに焦点をあてた戦略で、競争優位をめざす手段と資源の配分、展開方法が分析の対象となる。

>1.  競争要因
ポーターは、企業が競争優位を確保するには、魅力的な業界を選択する必要があるという。魅力的な業界とは、他の業界と比べて収益性が高い業界のことで ある。
業界の収益性は、業界構造によって規定される。その業界の競争状態を規定す る要因として、ポーターは、次の5つの力(ファイブフォース)の存在を指摘した。これらは、それぞれの業界内において、競争を促進している要因、すなわち 競争駆動力といえる。

(1)産業内の競争相手(既存企業間の競争の強さ)
既存企業間の敵対度は、競合他社の数や規模・パワー、業界の成長性、固定 費・在庫費用の大きさ等によって規定される。業界の魅力度は、既存企業間の 敵対度が高まれば、低下して行く。

(2)新規参入業者(潜在的競争業者の参入可能性の強さ)
新しい参入者が入り込んでくる可能性がどれだけ高いかによって、競争状態が決まる。新規参入の可能性が高い業界の競争は激しい。これを迎え撃つ既存 業者にとっては、新規参入を防止するための参入障壁がどの程度存在するかが重要となる。すなわち、新規参入の可能性は、その業界への参入障壁の高さによって決まる。
新規参入の脅威度が高くなれば、業界の魅力度は低下していく。
参入障壁の高さを決定する要因としては、次のようなものがあげられる。

1)規模の経済性
規模の経済性が強く働く業界では、新規参入業者は初めから大量生を行わなければ、コスト面で不利に直面する。

2)製品差別化
製品差別化とは、過去からの広告、顧客サービス、製品の差異等によって既存の企業のブランド認知が高く、顧客の忠誠度を得ていることである。

3)巨額の投資
競争するのに多額の投資が必要な場合、参入障壁となる。

4)仕入れ先を変えるコスト
ある供給業者の製品から別の業者に変更するときに、買い手に一時的にコ ストが発生する場合、参入障壁となる。

5)流通チャネルの確保
新規参入業者は、自社製品の流通チャネルを作らなければならず、これが参入障壁となる。

6)政府の政策(法的規制等)
政府は、許認可制度や法律などで、ある種の産業への参入を制限したり、 禁止したりする。


(3)代替品(代替製品の圧力の強さ)
代替関係にある製品の圧力は、既存製品との比較での費用対 効果の高さ、代 替品に対する買い手の嗜好性の度合い等によって規定される。そして! この代 替品の圧力の強さ·脅威度が高まれば、業界の魅力度は低 下していく。

(4)供給業者(製品を製造するために不可欠な原材料·部品·エネ エネルギーなどの 供給業者の交渉力の強さ)
供給業者(売り手)の交渉力が強い場合、高い価格を受け入れ 高い価格を受け入れざるを得ず 益性は低くなり、業界の魅力度は低下していく。

(5)買い手(買い手の交渉力の強さ)
買い手(顧客・ユーザー)のパワーが強い場合、収益が上がらず業界の魅力度は低下していく。
買い手のパワーが強い場合とは次のよう場合である:
①買い手がバラバラではなく、特定の買い手が大きな比率を占めるというよ うに、集中している場合
②買い手の購入する製品が差別化されていない場合
③買い手が川上統合を図っている場合(例;部品の買い手である、組立 ーカーが部品メーカーを多角化の対象としている場合)

これら5つの競争要因を考慮して、より魅力度の高い業界を選択する必要がある。ただし、この5つの要因間の相対的な強さは、常に一定ではない。また、各要因の強弱も時間の経過とともに変動する。それ故、各事業単位は、競争環境の動向、競争要因の変動に注意を払うことが求められる。

図表4.1 セグメントの構造的魅力を決定する5つの要因

↓潜在参入企業
(移動性・参入退出の脅威)
↓供給者
(供給者の交渉力が強くなる脅威)
↓代替製品
(代替製品の脅威)
↓買い手
(買い手の交渉力が強くなる脅威)

産業内の競争相手
(セグメントにおけるライバル関係の強さの脅威)

 出典:コトラー『マーケティング・マネジメント第7版』プレジデ ト社、1996年、235ページ


>2.競争回避の戦略
企業は 競争市場でいかにライバルと祝ァっっかいワい かた おける競争を少なくしたり、排除したりする方向を志向する。
その結果、企業は高い利益をあげられることを期待する。例えば、技術的に他社 が のできない製品を開発し 特許をとって市場で独占的に販売する。あるいは圧刑めなブランドイメージを築くための努力をする。
そうした非競争への志向を実現するための手段には、以下のようなものがある

(1)参入障壁による競争の緩和
競争の緩和の第1のあり方は参入の制限をすることであり、その方法は多様である。
第1は法的 あるいは慣習的な制度に訴えで参入障壁をつくることである。 中欧社会にみられた座やギルド、現代社会における免許や許認可などがその例である。

参入闖壁の第2は技術の障壁である。例えばある業界で、基本的な技術が特 許で守ろれているとすれば、その特許の使用許諾を得るかまったく特許に触れない新技術を開発するか、どちらかを選択する必要がある。

第3の参入障壁は、初期投資の大きさである。鉄鋼業で高炉を建設するには巨額の投資が必要となる。

(2)意識的な競争の制限
鼓争の緩和のための第2のあり方は、競争相手との間の敵対行動が起きにく い状況をつくることであり、その典型的な手段は、カルテル(同業者による取引制限のための協定・合意)や談合である。ただし、独占禁止法等、法律によって禁じられているものである。

(3)市場におけるすき間の発見
市場のすき間(ニッチと呼ばれる)の発見とは、まだ参入していないか何らかの理由で参入の少ない市場に焦点を合わせ、そこへそこへ一番乗りをはたす、あるいは少数の市場メンバーの一人になる、という戦略である。


☆2. 競争優位の戦略
>1. ポーターの競争戦略
企業は市場において何とかして自らを非競争状態におきたいと考える。ポーターはこの非競争状態を「競争上の優位性」と言い換え、それを獲得するには、次 のような戦略が効果的であると主張する。

(1) コスト・リーダーシップ戦略(低原価戦略)
経験曲線という概念が普及したために1970年代より重視されてきたもので、競争企業よりも低い原価を達成することによって、コスト面でのリーダーシッ プをとろうとする戦略である。これによって市場占有率を高め、規模の経済を享受し、さらにいっそうのコスト·ダウンを実現させるというものであり、こ の戦略は、業界最大手の企業がしばしば選択する戦略である
この戦略を実現するためには、効率のよい新規の生産設備の導入、厳しい原価管理や予算統制などを行い、R&D (研究・開発)や広告のための費用を最小限に切り詰めることが必要であるとされる。

(2)差別化戦略
自社の製品やサービスに他社には見られない特色を出すことによって、独自 性を打ち出す戦略である。
品質やデザインの面で特徴を出したり他の製品にない機能を付加したりして 製品そのものに関わる特異性を出す。包装や広告・宣伝により社会的認知度やイメージを高める。販売の経路やアフター・サービスの体制で差をつける、と いった各種の政策がとられる。
差別化戦略をとった場合には、他社にはない付加価値の提供を主眼としてい るため、マーケットシェアはさほど高くない場合が多い。つまり、コスト・リ ーダーシップ戦略とは異なり、差別化戦略を実現できる企業は業界にひとつとは限られていないのである。

(3)フォーカス戦略(焦点戦略、集中戦略、特化戦略)
市場を細分化し、自社の能力に適合する一部のセグメントのみに焦点を合わせ、そこにおいて原価面もしくは差別化の面で優位に立とうとする戦略である。
低原価戦略と差別化戦略は、業界全体にわたってそれぞれの目的を達成することをねらいとしているが、フォーカス戦略は、競争の範囲を特定のセグメントに絞り込み、そこを対象にして、低原価または差別化、あるいはその両者を達成しようとする。ここでいうセグメントには、特定種類の顧客、特定用途のみの製品、地域等が考えられる。
 
図表4.2 ポーターの競争戦略

競争の優位性
          低コスト          差 別 化
競争の範囲
業界全体
      ①コスト·リーダーシップ戦略 ②差別化戦略
特定セグメントのみ
             ③フォーカス戦略
        (低原価焦点)        (差別化焦点)

出典:ポーター『新訂 競争の戦略』ダイヤモンド社、1995年、61ページ
 

>2. 戦略のリスク
これらの戦略には、それぞれリスクが伴う。
(1)コスト・リーダーシップ戦略のリスク
①過去の投資や習熟がムダになってしまうようなテクノロジーの変化の出現。
②コストにばかり注意を集中するために、製品やマーケティングを変えなけ ればならない事態を見忘れてしまう。

(2)差別化戦略のリスク
①低コストを実現した業者と差別化を果たした業者のコストの差があまりに も開きすぎてしまい、差別化によるブランド・ロイヤルティが維持できなく なる。
②差別化の要因に対する買い手のニーズが落ち込む。

(3)フォーカス戦略に伴うリスク
①戦略的に絞ったターゲットと市場全体で要望される製品やサービスの間に品質や特長面の差が小さくなる。
②戦略的に絞ったターゲットの内部に、さらに小さな市場を同業者が見つけて、フォーカス戦略を進める企業を出し抜いてしまう。


>3. 戦略間のトレード·オフ
ポーターは、コスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略とはトレード・オフ関係にあり、一般的にこの両者を同時に追求することは困難であると警告している。
しかし、両方の戦略が絶対的に両立し得ないものではなく、次の3つの条件が整えば、例外的に両立するといっている。

(a)ライバル企業が、コスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略の両方を追いも求めてアブハチとらずになっているとき、自社は一時的に両戦略について優位に立つ。

(b)市場シェアがかなり高く、低コストが達成されているときは、コストをかけ て差別化戦略を打ち出すことができる。

(c)技術革新で他社を出し抜いている場合、他社に対して両戦略で優位を占めうる。



>4. 価値連鎖(Value Chain)
価値連鎖(Value Chain)は、ポーターが提唱したもので、製品が消費者に届く までの一連の企業活動を、企業が生み出す価値の構造として体系化したものである (ここで、価値とは買い手が企業の提供するものに進んで支払ってくれる金額であ る)。バリュー·チェーンは価値創造活動とマージン(利益)からなり、また価値 創造活動は、主活動と支援活動から構成されている。そして価値創造活動とマージを足したものが、企業の生み出す価値になる。(図表4-3)

主活動は、①購買物流、②製造、③出荷物流 ④販売・マーケティング⑤サービスという5つの活動からなり、製品やサービスを顧客に提供することにに関与する活動である。

それに対して、支援活動は、①全般管理(インフラストクチャー)、②人事・労務管理、③技術開発、④調達、という4つの活動に区分される。支援活動は、製品やサービスを提供する過程に直接的には関与しないものの、主活動を遂行していくためには不可欠となる活動である。

主活動の①購買物流と、支援活動の④調達は一見似ているように見えるが、前者が製品原材料を外部から購買する活動を意味しているのに対し、後者が広く社内にない必要な機能を社外から調達する活動全般を指すという違いが存在している。
 
バリュー・チェーンは、企業の事業活動全体を機能ごとに、どの機能で付加価値が生み出されているか、どの機能に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探るものである。このようなツールを用いることにより、企業 動のどの部分で付加価値が生み出されているかを分析できる。これは特に経営分析における内部分析に活用でき、自社がどの機能に強みを持ち、また弱みを持っているかが分かる。この自社の強みをどのように活かすかが戦略として重要であり、バリューチェーンは、経営戦略の構築に活用できる。さらに、企業がコスト競争あるいは差別化競争をする時の事業戦略を検討するためにも利用できる。

図表4.3 Value Chainのフレームワーク 価値連鎖の基本形
支援活動
↓ 全般管理(インフラストラクチャ)
↓ 人事・労務管理
↓ 技術開発
↓ 調達活動

主活動
↓ 購買・物流  製造   出荷・物流  販売 マーケティング  サービス

マージン

出典:ポーター『競争優位の戦略』ダイヤモンド社、1985年、49ページ




p53

☆3.競争対抗戦略と市場地位類型
>1. 競争対抗戦略
1970年代半ばから生起した市場環境の大きな動きは、市場需要の停滞化傾向と競争力の増大をもたらした。このような成熟市場においては、企業間の直接的な競争が重要な意味を帯びてくる。つまり,一種のゲーム的色彩が競争市場で強ま っている。そして、いかなる競争ゲームでも一種の定石的ルールが存在するよう に、競争市場でも同様なことがいえる。(競争対抗戦略は、競争者数が安定し, 市場における競争地位が固まってくる、市場の成熟期において妥当性の高い戦略 であると考えられている。)

競争相手の市場内の持ち分を奪うための戦略を、嶋口充輝教授は著書『戦略的 マーケティングの論理』(誠文堂新光社、1993年)の中で競争対抗戦略と呼んで いる。どのような状況で、どのような特性を持つ組織が、どのような戦略を採用すれば、どのような成果が得られるのかを明確にすることによって、その一般的性質が明らかになる。つまり、競争対抗戦略は「現在、当該市場のなかである競 争地位を占めている企業が、その地位に応じてどのような戦略を採用すれば、最適な成果が期待しうるかを明らかにする」(前掲書、234ページ)ことを目的とし ている。

>2.  競争地位の類型化
競争対抗戦略を考えるにあたって、まず現在の自社の市場における競争地位 明らかにする必要がある。企業の競争地位を考えるのに2つの方法がある.①『リ ーダー』と『フォロワー』の2類型としてとらえる方法と、②『リーダー-』『フ ォロワー』『チャレンジャー』『ニッチャー』の4類型としてとらえる方法である。 2類型の場合、現実を説明するにはあまりにも大づかみなのが欠点である。
ここでは現実の複雑性を考慮して、4類型による競争対抗戦略を検討していく。
 (この4分類は後述する、マーケティング学者コトラーの提唱によるものである。)

(1) リーダー
当該市場における最大シェアを保持している業界最大手の企業をさす。最大シ ェアを獲得しているのでマーケティング販売力、ノウハウ、技術力、チャネル力バレッジ(流通経路において自社製品を販売している比率)、生産施設などを最も多く保有している。

(2)チャレンジャー
リーダーの地位をねらって、いつか自らその地位に就こうと挑戦する企業である。一般には業界で二番手、三番手に位置し、企業規模もそこにとどまって いる。高成長期にはリーダーと同じ戦略をとっていれば共に成長するが、低成長期においてはリーダーにシェアを浸蝕されると同時に、下位のシェアをもつ企業からもユニークな戦略でシェアをとられることもあるという性格を持つ。

(3)フォロワー
リーダーやチャレンジャー企業のもつ優れた市場戦略を模倣することによっ て、安いコストで市場内に存続する企業である。

(4)ニッチャー
市場内のニッチ(適所、すきま)を探りだし、その特殊市場に自らの圧倒的な地位を築こうとする企業である。 ニッチャーの戦略はリーダー、チャレンジャー、フォロワーの戦略に直接は競合しないという特徴を持つ。


☆4·競争対抗戦略の論理
4種類の競争地位類型企業が、その使命を果たすためにどのような競争対抗戦略 を取るべきかを考えてみよう。
競争対抗戦略には,基本的戦略方針、ドメイン、戦略定石がある。基本的戦略方針とは競争対抗的に企業の有利性を発揮するための原則的方向づけ、戦略定石とは、 競争戦略の実行にあたって、基本的に遵守すべき行動原則をさす。

>1. 基本的戦略方針とドメイン
(1) リーダー
リーダーのとる戦略は一般的にオーソドックス戦略と規定されるが、この方法は業界内の市場シェアが最大であることを維持、確保しなければならないため、市場全体をねらって戦略を策定する。
リーダーのドメインの範囲を限定化してしまうことは得策ではない。なぜな ら、あらゆる競争資源で、競争的に相対的有利性をもち、全市場層を網羅し、 あらゆるニーズに対応していくことが、リーダーの特権であり、最大市場シェ アの確保の要件だからである。だから、ドメインはきわめて抽象的で広範に渡っているものが多い。

(2)チャレンジャー
リーダーに比べて相対的に経営資源が少ないので、 リーダーと同質化戦略をとる限り、規模において自社よりまさるリーダーにはかなわないゆえに、徹底的な差別化戦略をとる。規模的にリーダーには劣るが、いつかは最大シェア を獲得しようとねらっているのでこのような方針になる。
ドメインがリーダーと同じでは、競争に対応することができない。しかし、 対象市場層を限定しすぎると逆にリーダーとの競争に対応できなくなってしま うので、対象市場をかなり幅広く取り、むしろ、顧客機能や独自能力によって リーダーとの差別優位性を築くようにしなければならない。

(3)フォロワー
リーダーやチャレンジャーが最も熾烈にあらそっている領域については諦め、上位競争の模倣をして二次、三次市場を確保しようとする。それを模倣戦略という。
リーダーとチャレンジャーの市場シェア争いには加わらない。また、ドメイ ンはリーダーに似たような領域を持つ。リーダーほど力がないので人々には認知されにくく、市場シェア拡大は難しい。模倣の技術やノウハウに優れている ことが多く、こうした手段やプロセスに関連づけたドメインになる。

(4)ニッチャー
いわば市場内のクリームに相当する部分(うまみ市場)でリーダー、チャレンジャーと競争することになるが、ニッチャーが持つ独自能力をそこだけ集中的に投入するので強みを発揮する。
ドメインは範囲の限定化を強く打ちだし、そこに合うニーズと技術ノウハウを使うため、顧客機能、対象市場、独自能力の限定化、特定化をする必要がある。

図表4-4 競争上の地位と戦略パターン

相対的経営資源の位置     量
                大     小
質 高       リーダー     ニッチヤー
  低       チャレンジャー  フォロワー

量的資源:営業マンの数、投入資金、生産能力など
質的資源:ブランドのイメージ、マーケティング力、 技術水準、トップのリーダーシップなど

出所:嶋口充輝『総合マーケティング』日本経済新聞社 1985年



p57

>2. 各競争地位別類型企業の戦略定石
各競争地位別類型企業の基本的戦略方針とドメインが確定されると、具体的な市場政策が策定される。その政策には定石が存在する。
リーダーはオーソドックス戦略という基本アプローチのもとで、具体的な政策を遂行するため、もっとも効率のよい教科書的な戦略を忠実に実行する(詳しく は後述する)。

それに対して、チャレンジャーはリーダーにできない非オーソドックス戦略を果敢に遂行するため、教科書的セオリーよりも創造的で革新的な政策が主体にな る.

フォロワーは、自ら特定の対応セオリーはもたず、リーダーやチャレンジャー のとる優れた戦略を選択的に取り入れる。

 ニッチャーの政策は、基本的には市場を競争者から差別的に特定化して適所(ニ ッチ)を築くことであり、そのためには市場細分化戦略を徹底することが大事で ある。その特定化した市場での政策はリーダー的政策と類似したものになる。

以上のように競争地位類型企業は、基本的戦略方針、ドメイン、戦略定石につ いてそれぞれに類型化することができる 最後に、本節を整理するために表を示しておくので参照されたい。


p58 表

図表4-5 競争市場戦略の整理
  
競争地位       
リーダー(leader)
競争対抗戦略 
  戦略課題:市場シェア、利潤、名声
  基本戦略方針:全方位型(オーソドックス戦略)
  戦略ドメイン:経営理念(顧客機能中心)
  戦略定石:周辺需要拡大、同質化、非価格対応、最速市場シェア

↑マーケティング マネジメント戦略
  戦略的ターゲット:フルカバレッジ
  マーケティング・ミックス:中・高品質、価格、フルラライン化、高プロモーション、開放型流通

競争地位
チャレンジャー(Challener)
 競争対抗戦略 
  戦略課題:市場シェア
  基本戦略方針:対リーダー差別化(非オーソドックス)戦略
  戦略ドメイン:顧客機能と独自力の絞込み(対リーダー)
  戦略定石:リーダーの上記以外の政策(リーダーができないこと)

↑マーケティング マネジメント戦略
  戦略的ターゲット:フルカバレッジ/選択的特定化
  マーケティング・ミックス:対リーダー差別のミックス構築
                 (e,g,価格ディスカウント、低品質低価格、プレステージ品・・・)

競争地位
フォロワー(Follower)
 競争対抗戦略 
  戦略課題:利潤
  基本戦略方針:模倣戦略
  戦略ドメイン:通俗的理念(良いものを安くなど)
  戦略定石:リーダー、チャレンジャー政策の観察と迅速な模倣

↑マーケティング マネジメント戦略
  戦略的ターゲット:二次,三次市場でのフルカパレッジあるいは選択的特定化
  マーケティング・ミックス:臨機応変型のマーケティング・ミックス

競争地位
ニッチャー(Nicher)
 競争対抗戦略 
  戦略課題:利潤、名声
  基本戦略方針:製品・市場特定化戦略
  戦略ドメイン:顧客機能、独自能力、対策市場層の絞込み
  戦略定石: 特定市場内でミニ・リーダー戦略

↑マーケティング マネジメント戦略
  戦略的ターゲット:焦点市場ないしニーズ特化
  マーケティング・ミックス:特定ニーズ訴求型のマーケティング・ミックス

☆リーダーの戦略定石

リーダー企業のとるべき戦略定石は市場に大きく影響を及ぽすので、それを知っ ぼすので、それを知っておくことは極めて重要である。基本的には『需要拡大を非価格競争によって目指 し、最大の市場シェア確保を果たす』ことである。次のような基本的政策がある。

>1. 周辺需要拡大政策
リーダーは既存市場内で最大のシェアを獲得しているため、経営資源に対しては最大であると考えてよい。したがって、周辺需要が拡大すれば特別なことがな い限り既存シェア分だけ獲得しうる。周辺需要拡大政策にも2通りが考えられる。

①リーダーが、まったく独自で市場をつくるやり方
②業界協調型の周辺需要拡大の方法

いずれの場合でもリーダーにとっては効率的であり、リーダーの戦略として有用である。

図表4-6 周辺需要拡大政策
周辺需要拡大分   60%
ニッチャー シェア 15%  
フォロワー シェア  5%
チャレンジャー·シェア  20%

出典:嶋ロ充輝『戦略的マーケティングの論理』誠文堂新光社, 1993年, 243ページ


>2. 同質化戦略
『同質化戦略に持ち込めば規模の大きいところが勝てる』という原則にのっと った戦略であり、有効性がある。同質化戦略にも2つの方法がある。

①完全同質化戦略で、他社の製品やマーケティングをそのまま真似すること
②改善同質化戦略で、他社の製品より改善された製品を開発すること 59-

この戦略はリスクが少なく、投資もかからない効率的な戦略である。



>3.非価格競争戦略
リーダーが価格面で競争しないということは重要な鉄則である。 般! ダーが価格競争にまきこまれると、他の競争者も追随せざ るをえなくなってしま ,そのような事態になると業界全体が低迷してしまう。リーダーのイメージ 下がり、利潤を圧迫しその地位も危うくする。また価格は、一度値下げしたもの を再び値上げすることは困難であるから、例外も存在するが、基本的にリーダー は価格戦略を行う必要はない。


>4, 最適市場シェア維持
リーダーは最大の投資収益率が得られる市場シェアを確保し、維持しなければ ならない市場戦略と成果の関係を解明するPIMS研究(市場シェアと投資収 益率の関係の研究)やコトラーブルームの研究によれば、市場シェアと投資収 益率の関係は図表4-8のようになる。最適な市場シェアを維持することにより、 チャネルカバレッジ、最適広告費、販売員の配置などを最適の水準に保つことも可能である。


 図表4-7 最適市場シェア
山なりカーブ
縦軸:投資収益率   最大利潤値
横軸:市場シェア    (交点)最適市場シェア  

出典:嶋口充輝『戦略的マーケティングの論理』誠文堂新光社, 1993年、247ページ



p61

☆ 6. 技術経営(MOT)
>1. 技術の市場性評価

技術の重要性は、近年の中小企業白書の中でも強調されている。 経済成長の要因は供給面から見れば、資本及び労働の量的増加と全要素生産性 の向上に分解することができる。このうち全要素生産性(TFP) とは、技術進 歩、資本や労働の質的向上等を表すものである。 わが国経済において、これまでは資本等の量的増加が経済成長の要因であった が、経済が成熟化し、少子高齢化、人口減少傾向が進む中で、今後、資本や労働 の量的増加は見込みにくくなっている。こうした中で、TFPの伸び、その中で も技術進歩の果たす役割が注目されてきている。

(1)技術革新(イノベーション)のマネジメント
今日、技術という言葉はしばしば技術革新という熟語で使われている。それ は現代における技術の変化の激しさをも物語っている。 技術は、それ自身の性格として変革、発展の契機を自らの中にもっている。
 「ある特定の目標を達成するための合理的なひとまとまりの手順」である技術 は、つねに「より合理的」「より効率的」なシステムを追求しようとする。つ まり、技術は「あるものの製造の仕方」を効率化すると同時に「技術」自体を 効率化、発展させようとする。
 しかも今日、技術革新の進行のテンポはきわめて速くなっている。このよう に急激に技術を取り巻く環境が変化していく現在、技術(あるいは技術革新) というものを重要な経営の要素、すなわちマネジメントの対象として研究して いく必要がある。
 この学問は、技術経営論(Management of Technology:MOT)と呼ばれており、 1970年代のアメリカにおいて発展した。その起こりはアメリカのG E (ゼネラ ル·エレクトリック社)での研究所運営上のノウハウの蓄積から始まったとい われている。


>2、技術関連の重要概念
(1)イノベーションの区分
①プロダクトイノベーションとプロセスイノベーション
技術革新(イノベーション)はその内容によって、一般にプロダクト(製品) イノベーションとプロセス(製造工程)イノベーションに区分される。
プロダクト·イノベーションとは新製品そのものを生み出すこと、あるいは 新製品の概念に関するイノベーションである。それに対して、プロセス·イノ ベーションというのは、一定の製品をいかに効率的に生産するかという製造工 程に関するイノベーションである。 わが国は、従来、どちらかというとプロダクト イノベーションよりも、プ ロセス·イノベーションの方が得意であると考えられてきた。

②インクリメンタル イノベーションとラジカル·イノベーション
イノベーションは、影響の大きさによって「連続的」なものと、「非連続」 のもの(これまでの技術に、いわば革命をもたらすようなもの)に区分するこ とができる。
前者は、インクリメンタル·イノベーションと呼ばれ、後者はラジカル·イ ノベーションと呼ばれる。インクリメンタルという用語は、もともと「漸次的 (ぜんじてき)」=だんだん、次第次第に、徐々に という意味を有している ことから、漸次的で、連続的なイノベーションを指している。 逆にラジカルという用語は、「根本的」「根底的」という意味を有している ことから、これまでの技術とは、「非連続」の性質を有し、これまでの技術に いわば革命をもたらすようなイノベーションを意味している。

③持続的技術と破壊的技術
持続的技術と破壊的技術というのは、クレイトン クリステンセンが 『イノ ベーションのジレンマ』と題する著書の中で使用した概念である。クリ クリステン センによれば、イノベーションを推進する技術は、持続的技術と破 技術と破壊的技術に 区分することができる。

破壊的技術とは、これまでの技術の壁を大きく突破するような、革新的な技術である。それに対して、持続的技術とは術である。それに対して、持続的技術とは既存製品の性能を高めるような技術 である。従来、その産業においてリーダーであった企業(産業リーダー)は, 持続的技術の競争において圧倒的な強さを発揮する、とクリステンセンは指摘 する。しかし、いったん、市場に破壊的技術が登場すると、産業リーダーはi 短期間のうちにその市場地位を失ってしまう。
 
それは、産業リーダーである企業にとって最重要である顧客グループ が 破 壊的技術について、即座にはそのメリットを認めない ために、産業リーダーで ある企業はこうした破壊的技術の導入が遅れてしまい、 将来の顧客が重視する はずの破壊的技術に向けた投資のタイミングが遅れてしまうのである。
 
このように、(従来の技術レベルにおいては、圧倒的な競争力をもっていた) 産業リーダーの企業が、新たな破壊的技術への対応が遅れた結果、自らの市場 での地位の失脚につながっていくことを、クリステンセンは「イノベーション ・ジレンマ」と表現している。

(2)製品アーキテクチャ
製品アーキテクチャというのは、製品を設計する際の基本的な設計思想の二 とである。難しい表現をとると、設計とは「システムが求められる機能を実現で きるように構成要素の特定の状態(パラメータ)を選択する行為」などとも表現 されている。

①クローズド戦略とオープン戦略
製品アーキテクチャにはさまざまな考え方があるが、クローズド戦略とオープ ン戦略という区分がある。
 「他社の追随を防ぎながら単独で自社製品を業界標準にしようとする」のはク ローズド(囲い込み)戦略である。それに対して、「他社に対して自社規格を公 開して採用してもらい、他社と協力しながら、自社製品およびそれと互換性のあ る製品を業界標準にしようとする」のは、オープン(業界標準)戦略である。

②モジュラー型とインテグラル型
過去の中小企業白書に、モジュラー(組み合わせ)アーキテクチャとイン テグラル(摺り合わせ)アーキテクチャの説明が記述されている。
モジュラー ・アーキテクチャは、製品設計のモジュール化の進展とともに注目されている製品アーキテクチャである。モジュール化とは、統一された規格を とに、複雑な製品をいくつかの部分(モジュール)に分解し、それぞれのモジ ール毎に独立したイノベーションが行われることで、全体の生産性が向上する こ とである。例えばパソコンの場合 、機能ごとにいくつかのモジュール(ハード デイスク,CPU,メモリ等)に分割される。

他方、モジュールとは逆に、それぞれ工程間で摺り合わせを行いながら一つの 他方、モジュ 製品を完成させていく「インテグラル(摺り合わせ)」技術が、日本の生産現場 では多くみられ、自動車産業などは、その代表的なものである。自動車産業は3 万点以上もの部品全体を通じての調整、摺り合わせを行うことにより、燃費や乗 り心地、静粛性、ハンドリングといった性能を作り込むことが要求されている。 そのため、モジュール化になじみにくい性質を持っている。

③オープンモジュラー型とインテグラル型
かつて2005年版中小企業白書(ぎょうせい、2005年)には、次のような図が掲 載されていた。


p65

図表4.8
モジュラー(組み合わせ)アーキテクチャとインテグラル(擦り合わせ)ア キテクチャ

                 
Modular Architecture
モジュラ ー (組み合わせ)型


パソコンのシステム
計算●- ■パソコン
印刷●- ■プリンター
投影●- ■プロジェクター
製品の欄能   製品の構造


Integral Architecture
インテグラル(擦り合わせ)型


乗用車
製品の機能           製品の構造
走行安定性(→全項目)    サスペンション
乗り心地(→全項目)      ボディー
燃費(→全項目)         エンジン

                              製品アーキテクチャの基本タイプ
                      インテグラル (擦り合わせ)     モジュラー (組み合わせ)
                                    クローズド·インテグラル               クローズド モジュラー
クローズド(囲い込み) 乗用車、オートバイ、       メインフレーム、
             ゲームソフト、           工作機械
             軽薄短小家電、他             レゴ

オープン(業界標準)                    オープン・モジュラー
                                パソコン、同ソフト
                                インターネット
                                新金融商品、自転車

資料:藤本(2004)「日本のものづくり産業戦略と企業間 連携」より、引用

製品アーキテクチャの基本タイプとしては、「クローズド」と「オープン」、「モ ジュラー」と「インテグラル」の組み合わせとして、「オープン、モジュラー」「ク ローズド·インテグラル」「クローズド·モジュラー」の3タイプが存在している。