第10章 連携·共同化

☆1.連携·共同化の推進
 中小企業は一般に規模の過小性、技術力の低さ、信用力の弱さ等によって不利な 立場に立たされている場合が多く、そのため、同業者などが相寄り集まって組織化することは、生産性の向上を図り、価値実現力を高め、対外交渉力の強化を図るために有効である。中小企業の組織化を図るためには、参加する中小企業者の目的に 合った組織を選択し、活用する必要がある。

図表10-1 中小企業者の団体の組織形態

1,法人格なし
  :任意グループ
  :有限責任事業組合(LLP)
 2,法人格あり
  :共同出資会社 :
  :公益法人
  :組合
     中小企業等協同組合法に基づく組合
       ①事業協同組合、
       ②事業協同小組合、
       ③火災共済協同組合
       ④信用協同組合、
       ⑤協同組合連合会、
       ⑥企業組合

    中小企業団体の組織に関する法律に基づく組合
        ①協業組合、
        ②商工組合・商工組合連合会

    商店街振興組合法に基づく組合
       ①商店街振興組合、同連合会

    その他法律に基づく組合


>1.組合制度
(1) 中小企業等協同組合法(昭和24年度に制定)にもとづく組合制度
中小企業等協同組合制度は、中小規模の事業者、勤労者などが、組織化し、相互 扶助の精神に基づき、協同して事業に取り組むことによって、技術・情報・人材等 お互いの不足する経営資源の相互補完を図るための制度である。

図表10-2 中小企業等協同組合法に基づく組合制度
事業共同組合 組合数36,921
組合員である中小企業者が行う事業に関して、共同経済事業や共同事業を行うことにより中小企業者の経営の合理化と取引条件の改善を図るものである。
 共同経済事業 例)共同生産、共同購入、共同運送など
 共同事業 例)組合員のための福利厚生施設の設置

事業協同小組合 組合数12
主に事業者自身の勤労によって事業を行っているような小規模事業者のための組織で、事業協同組合とほとんど同様の事業を行う

火災共済協同組合 組合数42
組合員等が火災、破裂、爆発、落雷、風災、ひょう災、雪災等の偶然な事故により被る財産上の損害を補填し組合員の事業の安定を図るための組合である。その主たる事業は、組合員等が前記事故により その財産に損害を受けた場合において、その損害をうめるための共済事業である。

信用協同組合 組合数 163
組合組織による中小企業専門金融機関で、「信用組合」のことである。中小企業者、勤労者等の相互扶助を目的とするもので、事業と しては組合員に対する預金の受入れ及び資金の貸付等の他、為替取 引、有価証券の売買,貸し付け、有価証券,貴金属その他の物品の 保護預かり等の金融事業を行う。

協同組合連合会 組合数 761
協同組合(企業組合を除く)の連合体であり、協同組合が単独で行 うよりも、大きな効果が期待できるような共同事業(例えば共同宣 伝,共同広告等)を行って、その会員である協同組合及び組合員の 経済的地位の向上を図ることを目的とする。

企業組合 組合数2, 475
独特の協同組合の形態であり、その組合員は自己の資本と労働力とのすべてを組合に投入し、企業組合自体が1個の企業体として事業 を行う。個人に加え、法人も組合員となれる。このため、企業組合 は、小規模事業者が合同してその経営単位を拡大して経済的地位を 向上するための組織として利用されるとともに、創業・新事業挑戦 のための多様なパートナーシップ組織としても利用される。

組合数は、平成21年3月現在。


(2)中小企業団体の組織に関する法律
中小企業者その他の者が協同して経済事業を行うために必要な組織又は中小企業者がその営む事業の改善発達を図るために必要な組織を設けることができるようにすることにより、これらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もつて国民経済の健全な発展に資することを目的として制定された法律である。

中小企業等協同組合法において規定する組合とともに、協業組合、商工組合およ び商工組合連合会を加えた組合について規定している(中小企業等協同組合法で規定する組合については、いわば二重に規定する形になっている) 。

図表10-3 中小企業団体の組織に関する法律に基づく組合制度



組合名 :協業組合 組合数 1.113
<目的と事業 >
組合員の生産、販売その他の事業活動についての協業を図ることに より、企業規模の適正化による生産性の向上等を効率的に推進し、 その共同の利益を増進することを目的としている。

組合名 :商工組合 組合数 1,429
<目的と事業 >
中小企業者が協同して、1)指導等事業、2)共同経済事業(出資組合に限る)を行うことにより、その営む事業の改善発達を図ると共に 国民経済の健全な発展に資することを目的としている。

組合名 :商工組合連合会 組合数 54
<目的と事業 >
商工組合の連合体であり、会員である商工組合又は商工組合連合会の行う事業の総合的な事業を行うことにより、中小企業者が営む事業の改善発達を図るとともに、国民経済の健全な発展に資することを目的としている

組合数は、平成21年3月現在。

※組合から株式会社への組織変更
中小企業が創業、新事業展開、経営革新を円滑に進めるため、お互いの経営資源 を補完し、連携していくことが重要であり、事業の成長段階に応じ、多様な連携組 織形態を選択し、柔軟な経済活動を可能にする必要がある。
このため、組合を活用した研究開発成果の事業化や、組合形態での創業や新事業 展開、経営革新の事業をさらに大きく成長できるように、中小企業組合(事業協同 組合、企業組合、協業組合)から株式会社への組織変更(人格を離持したまま組織 を他の種類の会社になること)が可能である。

図表10-4 組合法関係の体系図
中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)
中小企業団体の組織に関する法律 (昭和32年法律第185号)
中小企業庁のホームページ

(3)組合設立の手続き
組合を設立しようとする場合には、4人以上(協同組合連合会、商工組合連合会組合以上)の発起人が、設立に必要な書類を添えて、認可を受ける行政庁(原則と して、組合の地区が1つの都道府県内にある場合には、その管轄都道府県知事、 地区が2つ以上の都道府県にまたがる場合には、当該事業を所轄する各省の大臣等) へ申請をする必要がある。

図表10-5 事業協同組合、企業組合、協業組合の特徴の比較

事業協同組合
目的:組合員への直接の奉仕、組合員の経営合理化および経済活動の機会の確保
組合員資格:地域内の小規模の事業者
設立要件:4人以上の事業者
議決権:1人1票
出資限度:100分の25
配当:利用分量配当、または、出資配当(1割まで)
認可を受ける行政庁:
①地区が1都道府県の場合は都道府県知事
②地区が2都道府県以上の場合は経済産業局等の長
③全国は所管大臣

企業組合
目的:組合員への直接の奉仕、組合員への経営合理化
組合員資格:個人および法人
設立要件:4人以上の個人
議決権:1人1票
出資限度:100分の25
配当:従事分配当、または、 出資配当(2割まで)
認可を受ける行政庁:主たる事務所所在地を管轄する都道府県知事

協業組合
目的:事業規模の適正化による生産性向上、共同利益の増進
組合員資格:中小企業者および定款で定めたときは4分の1以 内の中小企業者以外の者
設立要件:4人以上の事業者
議決権:平等(ただし、出資比例の議決権も認める)
出資限度:100分の50未満
配当:定款で定める場合を除き出資配当
認可を受ける行政庁:
①主たる事務所所在地を管轄する都道府県知事
②2都道府県以上に事務所を有するときは経済産業局等の長

「平成22年度 中小企業施策総覧」中小企業庁編219ページより一部抜粋



(4)商店街振興組合法にもとづく組合制度
商店街振興組合法にもとづく組合には、商店街振興組合と商店 街振興組合連合会 がある。商店街が形成されている地域において、共同経済事業や環境整備事業を うことを目的としている。

①事業
(ア)仕入れ、保管、運送、宣伝、チケットと商品券の発行等の共同経済事業
(イ)アーケード、駐車場の設置等の環境整備事業(商店街振興組合に限る)
(ウ)組合に対する指導,連絡(商店街振興組合連合会に限る)

② 商店街振興組合の組合員となる資格
(ア)その地区内において、小売商業又はサービス業に属する事業その他の事業 を営む者
(イ)組合の定款で定める(ア)以外の者

③設立要件
(ア)この組合は、一種の地域組合ともいうべき性格の組織で、組合員としての 資格を有する者の3分の2以上が組合員となり、かつ、総組合員の2分の 以上が小売商業又はサービス業に属する事業を営む者でなければ設立できない。
(イ)組合の地区の重複は禁止され、1地区に1組合しか設立できない。
(ウ)商店街振興組合を設立するには、組合員になろうとする7人以上の者が、また、商店街振興組合連合会を設立するには、会員になろうとする2以上の組合が発起人になり、行政庁の認可を受けなければならない。


(5)中小企業団体中央会
中小企業等協同組合法に基づき、組合の指導・連絡等を行う団体のことである。 各都道府県中小企業団体中央会とその上部団体である全国中小企業団体中央会がお り、1)組合等の指導事業(組合の設立、管理、解散等の諸手続の指導、連絡、組合交 流の場の提供等)、 2)組合等の人材養成事業、3)組合等に関する調査研究事業、4)組合等への情報提供事業を行う。また近年、任意グループ等に対する多角的連携組織 への指導・支援が充実強化されている。


>2.高度化事業
高度化事業は、中小企業者(商工会、公益法人等も含む)が共同して経営基盤の強化や事業環境の改善を図るために、工場団地・卸団地、ショッピングセンターな どを建設する事業や、街づくり会社が商店街を整備するなど地方公共団体と地元産業界が協力して地域の中小企業者を支援する事業に 要な資金を、都道府県と中小企業基盤整備機構が財源を出し合い、事業計画等に対するアドバイスを行いながら、長期、低利で融資する事業である。

(1)事業の種類
①中小企業者が行う事業:中小企業者が事業協同組合などを設立して共同·連携 して経営基盤の強化などに取り組む事業である。

事業名 事例
集団化
工場を拡張したいが隣接地に用地を確保できない、騒音問題のため操業に支障があるなどの問題を抱える中小企業者が集まり、郊外に充実した設備の整った工場を新設し、事業の拡大・効率化、公害問題の解決を図る。

集積区域整備
商店街に、アーケードやカラー舗装、駐車場などを整備したり、各商店を 改装し、商店街の魅力・利便性を向上させ集客力を高める。

施設集約化
大型店の出店などにより今後の経営に危機感を抱いている商店主が、共同で入居するショッピングセンターを建設し、集客力・販売力を向上させる。

連鎖化
中小企業者が共同でPOSシステムを導入するなど、中小小売商業者や中小サービス業者が、営業の独立性を維持したまま、チェーン店として流通の合理化を図る。

共同施設
中小企業者が共同で利用する共同物流センター、加工場や倉庫などの施設を建設し、事業の効率化、取引先の拡大を図る。

設備リース
中小企業者が個々に導入することが難しい最新鋭の設備を、組合が一括で 購入し、組合員に買取予約付で賃貸する。

経営改革
新商品·新技術の開発、情報の収集·処理·提供を行うために、共同で利 用する研究施設や試験器機などを設置する。

企業合同
特別の法律の規定にもとづく承認や認定を受けた中小企業者が相互に合併したり、出資会社を設立して事業の集約化、事業転換、研究開発の成果 の利用を図る。


②第3セクター等が行う事業:地方公共団体と地元産業界が協劜て設立する第 3セクター(株式会社、公益法人)、商工会などが、地元の中小企業者や起業家を支援する施設を設置・運営する事業である。

事例 事業名
地域産業創造基盤整備
起業家を支援するインキュベーション施設などを設置し運営する事業

商店街整備等支援
商店街活性化,集客力向上のため、多目的ホール、駐車場、 共同店舗などを設置し運営する事業


(2)高度化出資事業
地域産業創造基盤整備事業、または商店街整備等支援事業を行う第3セクターが 株式会社の場合、中小企業基盤整備機構は、1)地方公共団体による出資額の合計額 以下、2)当該株式会社の資本金の1 / 2以下の要件の下で出資を行う。

(3)診断の実施
事業を実施しようとする中小企業者は、計画が具体化する初期の段階から高度化事業計画の作成に関し、都道府県から助言を受ける必要がある。また、作成した高度化事業計画については、都道府県が診断を実施する。

(4)資金の流れ、貸付条件
高度化計画の貸付方式は、A方式とB方式がある。 A方式は、1つの都道府県内 で行われる事業に対する貸付方法で、都道府県が貸付を行うB方式は、原則とし て2つ以上の都道府県にまたがる広域の事業に対する貸付方法で、中小企業基盤整 備機構が貸付を行う。

貸付対象:設備資金
貸付割合:原則として80%以内
貸付期間:20年以内(うち据置期間3年以内)
担保,保証人:都道府県または中小企業基盤整備機構の規定により徴求
貸付限度額:なし

図表10-6 高度化事業の資金の流れ
方式A: 中小機構⇒(財源貸付)⇒都道府県 (財源追加)⇒(資金貸付)⇒中小企業者

方式B  都道府県1、都道府県2(財源貸付) ⇒ 中小機構(財源追加) ⇒(資金貸付)⇒中小企業者

(中小企業庁のホームページより引用)


>3.有限責任事業組合(LLP)
海外では、ベンチャー企業や中小企業の連携、高い専門性を有する個人同士の連携による共同事業を振興するため、LLP(Limited Liability Peretonership:有限責任組合)やLLC(Limited Liability Company:有限責任会社)という事業体制が整備され、効果を上げている。
そこで、平成17年8月に「有限責任事業組合契約に関する法律(LLP法)」を制定し、共同事業のための新たな事業体制度を創設されている。

図表10-7 有限責任事業組合のイメージ[1]
(相定例 中小企業の連携 金型メーカーと成型加工メーカーの連携)

A社(金型メーカー)
B社(金型メーカー)
C社(加工メーカー)
D社(加工メーカー)

コア企業として全体をリード。目利き能力を活かして大企業に対する提案型の事業展開を推進
各社が金型製作・成型加工に関して専門的な能力を提供


高性能自動車部品 開発・製造共同LLP
中小企業庁HPより

高い技術力と目利き能力をもつ金型メーカーA社、3次元CADを使い高度な設計のできる金型メーカーB社、エンジニアリングプラスチィックの材料技術に詳しい加工メーカーC社、多様な材料の成型加工技術を有するD社が、共同で高性能自動車部品を開発・製造する。(LLPを活用するメリット)


図表10-8 有限責任事業組合のイメージ図[2]

Aプログラマー
Bデザイナー
Cセキュリィチィ
D営業

個々の強みを持った専門人材が、互いの技術等を持ち寄って、より大きな事業を展開するために、共同事業体を組織。

ソフトウェア 共同開発LLP
中小企業庁HPより

プログラミングやグラフィックデザイン、セキュリィティー、営業等の分野で専門的な能力を有する専門人材が集まって、ソフトウェアの共同開発販売事業をする。(LLPを活用するメリット)


(1)有限責任事業組合(LLP)の特徴
①組合員の責任の範囲
出資者が出資の額の範囲までしか事業上の責任を負わない有限責任制である。

②組合事業の運営方法
組合契約によって組織構造を柔軟に設定でき、また、組合員の組合事業への貢献度に応じて、出資比率とは異なる損益や権限(議決権)の配分が可能である。

③構成員課税
組合事業から発生する利益委対して、法人税は課されず、出資者に配分された利益に課税される。


(2)LLPの共同事業要件
①組合契約の作成
組合の基本事項を契約書に記載し、全員で署名または記名・押印する。
(組合の名称、事業内容、事務所の所在地、組合員の氏名・名称・住所・出資の目的と価額、契約の効力発生の年月日・存続期間、事業年度[また、この他、組合員の合意により、たとえば、解散理由などを記載することも可能。] )

②組合契約の登記
LLPは、組合契約書の作成と組合員の出資の腹込みの後に、LLP契約の登記をすることで設立の手続きが完了する。

③開示義務
「有限責任事業組合」の名称を表示する義務がある。(これは、契約書等正式な書面の場合の義務で、たとえば、名刺や看板などで「LLP」という略称を使うことは可能。)

債権者保護の観点から、損益計算書、貸借対照表等を作成し、債権者の求めに応じて開示する義務や組合財産の配分規制組合財産は、その分配の日における分配可能額(純資産額の範囲内で経済産業省令で定める方法により算定される額。)を超えて、これを分配することができない。などの規制がある。

④共同事業要件
LLPの全組合員は事業上の意思決定と業務執行への参加が義務付けられている。(なお、業務執行を組合員間で分担することは可能。)


(3)組合設立の流れ
図表10-9 組合設立の流れ

組合員による組合契約の作成

出資金の払い込み、現物出資の給付

組合契約登記申請

組合契約の登記の完了

(設立まで概ね10日間必要。登記免許税:6万円)
中小企業庁のホームページより