第3章 生産情報システム
<本章の目的と出題傾向>
企業の生産目的を達成するために、生産活動の諸領域(第1章~第2章)について 必要な情報を適時・適所に提供することが、本章における生産情報システムの目的である。
本章の内容は、中小企業診断士試験の旧制度(情報部門)において、「生産情報システム」という独立した選択科目として問われていたものである。
出題傾向としては 本章からの専門的な出題というよりも、第1章「生産管理」や第2章「資材及び購買 管理」の領域から生産情報システムの用語と特徴が問われる内容であった。

☆1.生産情報システムの概要
>1. 生産情報システム
生産情報システムは次のような主要なサブシステムから構成されている。

(1)需要予測システム
見込生産の場合、予測情報にもとづき製品需要を予測する。受注生産の場合 引合時に、納期、数量、原価、余力を考慮のうえ、有利な製品の受注を選択する。 1を在 (

2)生産計画システム
需要量の予測値および長期·短期経営計画にもとづき、必要な生産能力、労働 力などの所要量を計算し、生産計画を立案する。

(3)在庫管理システム
自動化倉庫を前提として、部品、製品の入庫管理,棚卸し、在庫管理手法によ 、され る適正在庫量の決定、MRP. VA、ABC分析などの手法が用いられる。

(4)日程計画システム
山積表やMRP等で、各工程の負荷計算を行い、日程計画を立案する。

(5)資材管理システム
注文手配によって納入される資材の受入れ、検査、購買先の評価を行うととも に、受け入れた資材の保管、搬送先を指示する。 145

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ーダーを入力し、作業 外注オーダ を作成ナを嘉

(6)工程管理システム
製造オーダーを入力L,作業,外注オーダーを作成する。したがって、精密な 工程負荷·能力のバランシング計算が要求される。

(7)原価管理システム
製造原価資料の収集、原価計算を行い、製造原価の算定と原価管理を行う。

(8)技術情報管理システム
生産管理に必,要な部品表、工程手順などの生産情報を管理し、CAD/CAM との結合を図り、自動工作加工機械、ロボットなどの技術情報を管理する。 * 上記の生産情報システムのサブシステムは、基本的に第1章及び第2章に記載 されているので、それぞれの該当箇所を参照のこと。 一146 - 欠

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☆2. 生産情報システムの動向
「生産情報システム」の全体像
目的 CAD(設計支援) ワイヤーフレームモデル モデリング (サーフェイスモデル モデリング (ソリッドエー ソリッドモデル

CAM(製造支援)
CAE(開発支援)
POP(生産時点情報管理システム)
生産情報システム

1 NCエ作機械

CNC(コンピュータ内蔵のNC工作機械)
DNC(複数のNCをLANによりリアルタイム制御するコンピュータ)

FMS(多品種少量生産を自動化したもの)
 FMC(FMSを小規模化したもの)
 CIM(コンピュータ統合生産)

 生産業務は、自動化が進んでおり、その管理もシステム化が進んでいる。この分 野は、コンピュータおよび関連機器を導入しなければ実現が困難であり、従来型の 生産管理の枠を超えたシステムを対象としている。この節では生産の自動化等にっ いて、具体的なものを見ていくこととする。

>1. CAD
生産の自動化が進むなかで、設計の自動化はCAD (Computer Aided Design)と 呼ばれる、設計に関与する業務を支援する計算機システムが主流となっている J ISによるとCADとは、「製品の形状その他の属性データからなるモデルをコン ピュータの内部に作成し、解析·処理することによって進める設計。」(JIS B 3401 -0102)と定義されている。最近では、設計そのものをコンピュータと対話しながら 行う設計が進んでいる CADは、機械工業、金型、建築、電気、電子などの分野 での利用が多く見られる。 -147- 71

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(1) CADの目的
①設計·製図作業の省力化
②開発期間の短縮化
③部品·図面の標準化
④図面管理の合理化 等

(2)モデリング
CADにおける重要な技術にモデリングがある. CADでは部品や製品の立体 |形状をコンピュータに内部モデルとして表現する必要がある。三次元的な形状を 表現する手法には、次のモデルがある。 ①ワイヤーフレーム,モデル!
②サーフェイス·モデル!
 ③ソリッド,モデル モデル表現 面情報のない直線や円等1面情報は持つが、実体部|普段見なれている立体形 明1で表現する。処理が容易1分の奥行きが表現できな|状にきわめて近い表現す である。 る。

幾何要素1点,線 点,線,面 点,線,面,閉空間 出典:「生産管理の辞典」朝倉書店,P343


2, CAM CAM (Computer Aided Manufacturing)とは、CAD等のデータをもとに、NC プログラミングなどを行う作業設計や工作機、治工具の選択という工程設計などの 生産準備業務を行うシステムである。
J1 SによるとCAMとは、「コンピュータ 内部に表現されたモデルに基づいて生産に必要な各種情報を生成すること、及びそ れに基づいて進める生産の形式。」(JIS B 3401-0103)と定義されている。

CAD/CAMが連携することで、自動的にNC工作機械用(後述)のNCプログ ラムが生成できる。これにより、設計後直ちに製造に移行でき、多品種少量生産へ の有効な対策となる。 また、設計図面には様々な情報が表されており、部品名、図面番号などの名称、 ロットサイズ、寸法、形状、精度、表面粗さ、材質、熱処理などの技術情報、さらにコストや納期などの管理情報も含まれている。

このような図面情報を基に、「素 材から部品や製品に能率良く変換するための過程を計画すること」を工程設計という。
そして工程設計の自動化をCAPP (Computer Aided Process Planning)と呼ん でいる。

工程設計の主な作業には、
①加工順序の決定、
②加工法の選択、
③工作機 械の選定、
④工作機械の使用順序の決定、
⑤治工具の選定、
⑥標準時間の算出など がある。

> 3. CAE
設計した部品が期待どおりの強度等を有しているか機能評価を行うのがCAE (Computer Aided Engineering)である。
JISによるとCAEとは、製品を製造す るために必要な情報をコンピュータを用いて統合的に処理し、製品品質、製造工程 などを解析評価すること。」(JIS B 3000-3001)と定義されている。
つまり、コンビ ュータ支援によって構築したCADモデルを解析し、設計製品についての検証,評 価を行うものである。このCAEを実施することにより、より精度の高い設計が実 現できる。
 ●設計における機能評価項目 ①機構解析②強度解析③振動解析④熱解析⑤音響解析等

>4. POP
POP (Point of Production)システムは、生産現場における管理情報をリアルタ イムで管理するシステムである。
JISによるとPOPとは、「生産活動において 発生する情報を、その発生場所(機械、作業者、ジョブ)で即時に収集し必要な指示 (情報)を提供する情報管理システム。」(JIS Z 8141-6501)と定義されている。 生産の現場で発生する情報は、生産管理上、重要な情報が多いので機械や設備の 稼動状態、作業者への作業指示、加工部品の工程進捗など、生産の現場で発生する 生産時点情報の収集は、生産システムを円滑に効率よく運用する上で重要である。

(1)構成
| POP端末(データ収集装置)、ネットワーク、管理コンピュータ

(2)利点
リアルタイムに現場の進捗状況を管理でき、工程管理等が的確にできる -149-

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>5. NC工作機械
NC工作機械とは、工作物に対する工具経路、加工に必要な作業の工程などを それに対応する数値制御で指令する制御機能を持った工作機械である (Nume rical Control)とはプログラムで与えられた指令どおりに工作機械などの自動化機器 を制御することである。 最近では、マイクロプロセッサ機能向上によって制御、操作、通信などの機能を コンピュータが実行できるCNC (Computerized Numerical Control)装置が出てきて

>6. DNC
DNC (Distributed Numerical Con trol)は、1台のコンピュータで複数のNCまた はCNC機械に対して、加工指令情報をオンライン,リアルタイムで送り制御する ものである。 POPシステムによる工場LANが普及して管理用コンピュータと自動化機器が 相互に通信して情報のやり取りをすることが可能となったことがDNC出現のきつ かけである
DNCにより金型加工などの膨大な情報量を高速で通信したりするこ とで生産の効率化が期待できる。 909

>7. FMS
NC工作機械による加工の自動化が実現し、DNCの導入へと進展したが、物の 搬送と加工を自動的に行い、生産効率を向上させようとする方式が1960年代の後半 から顕著になってきた。生産形態が多品種中 少量生産となり、これに対応するた めに複合的な加工機能を有するマシニングセンタ(後述)が開発され、これを中心と した機械加工の自動生産システムが開発された。これがFMS (Flexible Manufactur ing System)である。

 一般的な定義は、
①機械加工が自動的に行うことのできるNC工作機械群から構 成され、
01作物の自働着脱装置があり、
③工程間移動を自動的に行うことにでき る自動搬送装置を備え、
④これらを総合的に制御、管理するホストコンピュータを もち、
⑤これを運用するソフトウェア、などからなるシステムである。

(1) FMSを構成する主要な機能とその機器
①加工機能:マシニングセンタ、NC工作機械、ロボット等 150

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②搬送機能:マテリアル ハンドリング、コンベア、AGV、自動倉庫等
③運用機能:ネットワーク、故障診断、保全

(2) FMSの導入による効果
①生産品種の多様性や設計変更の容易性の向上
②生産設備の柔軟性による生産性の向上、設備稼動率の向上う、リードタイムの 短縮、物流機能の向上
③運用の柔軟性による在庫の削減、工具管理や品質管理の改善等
 図表3-1 FMSの例
TI TTT 医ARE 出典:大山定男著「自動倉庫と最近の応用」『省力と自動化』通巻第319号, P86 上述のFMSの多くは、比較的大規模なものが多いが、最近、NC工作機械と ロボットの最低限の組み合わせによるFMC (Flexible Manufacturing Cell)と呼ば れる比較的小規模のシステムも多く活用されている。

● AGV (Automated Guided Vehicle) 自動搬送システムは、コンベアと台車に分けられる。 コンベアは、フォード生産システムでの採用にみられるように古くから利用 されている搬送方式であり、搬送速度が速い利点があるが、複雑な多方向の搬 送には向かないといった問題点がある。 一方、台車方式には無人搬送車式がある。無人搬送台車(AGV : Automated

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Guided Vehicle)は自動生産システムの搬送によく利用される。このAGVは 生産ラインの能力に合わせて台数を調整したり、分岐や合流が容易なため搬送 経路を比較的自由に設計することが可能であるなどの利点があるが、利用する 場合には作業者との衝突など安全性に配慮することが重要である。 8, FA FA (Factory Automation)は、工場の自動化,無人化のことをいい、機械工業の メカニカル·オートメーションと装置産業のプロセ を含むも スオートメーション のである。機械工業についてみると、加工·組立 検査,搬送,保管等の各工程を 自動化するもので、NC工作機械、自動倉庫、コンピュータ、LAN, CAD等で 構成されている FAは、FMSの上位概念である。

9, CIM
経営から生産、販売、開発などの各部門を統合したトータルな生産システムの構 築を実現するのがC I M (Compute Integrated Manufacturing)である。 CIMに関する定義は明確ではないが、生産活動における諸機能を情報処理技術 と通信技術によって統合的に制御し、企業の戦略活動の一環とする統合的生産シス テムをいう。ここでいう「生産活動における諸機能」とは受注から設計、製造、販 売に至る情報と物の流れである。そして、情報処理技術、中でもデータベースと通 信ネットワーク技術がC IMを支える重要な技術となっている。

(1) CIMの目的 生産と技術さらに販売の連携であり、リードタイムの短縮を狙った多品種少量 生産への対応である。

(2) CIMを実現するための段階
① 第1段階は、既存のCAD/CAMシステムをネットワークで接続して物理 的な統合化を図ることにより資源の共有化を実現する形態である。
②第2段階では、データベースなどによるデータの共有化や共通的なアプリケ ーションシステムを統合し、統合的なFA環境を構築する段階である。
 ③第3段階は、経営情報支援や販売,物流などのシステムも統合した経営シス テムの構築である。 -152-

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(3) CIM構築によるの主な効果
①情報の-元化と統合化 "情報処理の効率化 ,需要変動への即応化 在庫量の低減化
 ②システムの柔軟性と効率化 リードタイムの短縮 ·生産性の向上
③品質の高度化 ,品質管理の向上
④人的資源の有効活用 ·省力化に伴う作業活動の変化
⑤収益性の向上 ·製造原価の低減 ムの構 ·機会損失の減少 里技術

図表3-2 自動化レベルの発展過程
シス システム展開 自動化レベル 自動化機器 t.販 (単能NC ㈱ [ NC工作機械 くと通 DNC CNC (複合機能NC機) マシニングセンタ ンダー CNC工作機械 FMC (複合機能装置の結合) | [CNC工作機械 産業用ロボット 少量 制御コンピュータ FMS (工場全体の結合) CNC工作機械 産業用ロボット 自動搬送装置 自動倉庫 物理 (FA化) 制御コンピュータ [生産管理コンピュータ (CIM) 出典:工藤市兵衛著「現代生産管理」同友館, P341 -153- CC 等一 11-11 テc ーシ